●阿部氏と長女は「利益が対立する関係」でもある
──会見後、朝日新聞は、危機管理広報の専門家の「事実無根の臆測を防ぎ、ファンやスポンサーから一定の理解を得る有効な手段」という評価を紹介する一方で、二次被害のリスクを懸念する指摘も報じました。
危機管理は、短期的な事態の収束のための対応に焦点化されるべきではなく、中長期的な効果も含めた人権尊重の視点から取り組まれるべきです。被害者である長女が責められるという結果を生んだことは真摯に受け止めるべきではないでしょうか。
阿部氏と代理人弁護士は、長女との関係では、利益が対立する立場にもあります。
通常の暴行事件では、加害者側が被害者側に謝罪文や宥恕文言を求めようとしても、アプローチ自体が難しいことも多いです。
しかし親子であれば、ひとつ屋根の下で日常的に顔を合わせる関係です。赤の他人なら断れることでも、親子という関係性の中では断りづらい状況がありえます。
そこに、家庭内の権力関係が作用していなかったのか、当然疑問が残ります。
また、重大な出来事が起きてから、わずかな時間しか経っていない段階で、はたしてこのような形で気持ちを表明させることが、本当に適切だったのか。
手紙には「お父さんとは仲直りした」ことを伝える内容が書かれていました。それ自体は本人の率直な気持ちなのかもしれません。
ただ、人の感情は固定されたものではありません。「あのときは許せた」「でも、時間が経ってから許せなくなった」ということも十分ありえます。
にもかかわらず、社会に向けて手紙を公表することで、長女の被害認識や感情が公的に固定化されてしまう。そのことが、今後の彼女自身を苦しめないと言えるでしょうか。虐待を受けた直後の子どもの心情に、本当に十分配慮できていたと言えるのでしょうか。
「大事になったこと深く反省しております。大変申し訳ございません」との記述もありましたが、暴力の被害者がこのようなことを、加害者である親の代理人を通じて公表したことには衝撃を受けました。
今後も自責感情を内面化したり、通報をためらったりすることがないようにと願います。
●追い詰められる子どもが増えること心配
また、今回の経緯を見て、通報や相談ができずに追い詰められる子どもが増えることも心配です。国には子どもに向けた啓発を強化してほしいです。
今回のケースに直接適用できるものではありませんが、本来こうした場面で重要なのは、子どもの側に立つ中立的な第三者の存在です。
家事事件には「子の手続代理人」という制度があり、選任された弁護士が、両親いずれとも利害関係のない立場から、子どもの最善の利益を守る役割を担います。
子どもは、警察へ通報するだけでなく、自分を支えてくれる弁護士に相談することもできます。
弁護士会には子どもが直接相談できる無料の電話相談窓口があります。たとえば、東京弁護士会でいえば、こちらです(18歳以上も対象としています)。
虐待を受けたばかりの子どもが、自分の気持ちを整理するための時間と、安全に過ごせる空間を確保できること。それこそが、本当の意味での被害者保護ではないでしょうか。
今回の会見は、そのことを改めて社会に問いかけているように思います。

