消されてしまった証拠
さらに最悪なことに、冷戦状態が続く中で、夫がこう言ってきたのです。
「離婚するのはいいけど、慰謝料は1円も払えないから」
彼は何を言っているのでしょう。
「どういうつもり? あなたの浮気が原因なのよ」
思わず、カッとなります。
「そんな証拠、あるの?」
「えっ──」
しらばっくれる夫を前に、私は頭が真っ白になりました。
そう、彼は、浮気相手とのやり取りをすべて消してしまったのでした。
よく考えてみれば、私が知っているのは女性の下の名前だけで、どこのだれかもわからないのです。
どうして、あのときちゃんと証拠を控えておかなかったんだろう。
これから一人で娘を育てていかなければならないというのに。
「私は、母親失格だ……」
後悔と自己嫌悪で胸が押し潰され、目の前が真っ暗になりました。
「私はママの味方だからね」
そのとき、娘が部屋に入ってきました。
「ママ、これ見て」
娘が差し出してきたスマホのカメラロールには、パソコンの画面を映した、たくさんの写真が入っていました。
「これ……」
「少し前に、パソコンを借りようと思ってお父さんの部屋に行ったら、画面がそのままになっていて、見つけちゃったの。一応自分のスマホで写真を撮っておいたんだけど、お母さんが傷つくと思って、今まで言えなかったんだ、ごめんなさい」
内容を確認すると、そこにはたしかに、夫と浮気相手の生々しいやり取りが残されていました。
夫は観念したのか、気まずそうに黙り込んでいます。
私は、浮気されていたことよりも、娘を傷つけてしまっていたことのほうがショックでした。
ずっと前から父親の不倫に気づいていたのに、母親の私を気遣って、ずっと黙っていたなんて。
一人で抱え込んで、どんなに辛かったでしょうか。
「私は、ママの味方だからね」
娘の言葉を聞いた瞬間、涙があふれました。
本来なら、この子は私が守らなければならないのに。
情けなさと申し訳なさ、そして夫と浮気相手への怒りが、一気に込み上げてきました。
傷ついている場合じゃない。
この子を守るのは、私なんだ。
今までの不安は嘘のように吹き飛び、力が湧いてきました。

