視力低下やゆがみに対する治療は、黄斑浮腫をいかに抑えるかが中心となります。抗VEGF薬の注射やレーザー治療といった選択肢がある一方、初期症状は気づきにくく、見逃されるケースも少なくありません。治療の概要から、眼底検査・OCT・蛍光眼底造影検査といった診断の流れまで、受診前に知っておきたい情報をまとめています。

監修医師:
柳 靖雄(医師)
東京大学医学部卒業。その後、東京大学大学院修了、東京大学医学部眼科学教室講師、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授、旭川医科大学眼科学教室教授を務める。現在は横浜市立大学視覚再生外科学教室客員教授、東京都葛飾区に位置する「お花茶屋眼科」院長、「DeepEyeVision株式会社」取締役。医学博士、日本眼科学会専門医。
ゆがみに対する治療の選択肢
網膜静脈閉塞症による視力低下やゆがみの治療は、その根本原因である「黄斑浮腫」をいかに効率よく、かつ持続的に軽減させるかが中心となります。現在の眼科医療では、科学的根拠に基づいた複数の有効な治療法が存在し、患者さん一人ひとりの病状や全身状態に応じて適切なものが選択されます。ただし、網膜静脈閉塞症では、閉塞した血管が完全に元通りになることはほとんどありません。治療の目標は、黄斑浮腫を抑えて視力低下の進行を食い止めること、そして合併症を予防することです。早期に治療を開始すれば視力を維持できる可能性は高まりますが、特に網膜中心静脈閉塞症では、治療を行っても視力が十分に改善しないケースもあります。治療と定期的な経過観察により、安定した視機能を保つことが現実的な目標となります。
抗VEGF薬の硝子体内注射
現在、黄斑浮腫に対する治療の第一選択肢として世界的に広く用いられているのが、「抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬」を眼球内の硝子体(しょうしたい)に直接注射する治療法です。VEGFは、血管から血液成分を漏れやすくさせ(血管透過性の亢進)、また異常な血管(新生血管)の発生を促す作用を持つタンパク質で、黄斑浮腫の形成に中心的な役割を果たしています。抗VEGF薬は、このVEGFの働きを特異的にブロックすることで、血管からの水漏れを強力に抑制し、浮腫を改善させます。治療は点眼麻酔の後、非常に細い針を用いて眼の白目の部分から薬剤を注入するため、痛みはほとんどありません。通常は外来で数分で完了します。治療効果を持続させるために、最初は月1回程度の頻度で注射を行い、その後は病状の改善度合いを見ながら注射の間隔を延ばしていくのが一般的です。
ステロイド薬・レーザー治療
抗VEGF薬以外にも、強力な抗炎症作用を持つステロイド薬を眼内に注入する方法があります。特に炎症が強い症例や、抗VEGF薬の効果が不十分な場合に選択されることがあります。また、「網膜光凝固術(レーザー治療)」も重要な治療法の一つです。これは、浮腫を直接治療するというよりは、閉塞によって血流が途絶えた領域(虚血領域)をレーザーで凝固させることで、その領域から放出されるVEGFの産生を抑制し、将来的に新生血管が生じるのを予防する目的で行われます。新生血管は、重篤な合併症である血管新生緑内障や硝子体出血の原因となるため、その発生を防ぐことは長期的な視力維持のために不可欠です。どの治療法が適切かは、病気のタイプ、重症度、合併症の有無などを総合的に判断して決定されます。医師と十分に話し合い、それぞれの治療法の利点とリスクを理解した上で、治療に臨むことが大切です。
網膜静脈閉塞症の初期症状を見逃さないために
網膜静脈閉塞症は、発症初期には症状が非常に軽微であったり、断続的であったりするため、本人も気づかないまま時間が経過してしまうことがあります。しかし、この病気は早期に発見し、適切な治療を開始することが、良好な視力予後を得るために極めて重要です。見逃されがちな初期症状のサインを知っておきましょう。
初期症状に気づきにくい理由
人間の脳は非常に優秀で、両目から送られてくる視覚情報を統合し、一つのクリアな映像として認識しています。そのため、片方の目に軽度の異常が生じても、もう片方の正常な目がその情報を補ってしまうため、異常に気づきにくいのです。特に、視野の中心から少し外れた部分に病変がある網膜静脈分枝閉塞症の初期では、日常生活の中でほとんど不自由を感じないこともあります。両目を開けている限り、片方の目の小さな視野欠損は容易に見過ごされてしまいます。だからこそ、意識的に片目ずつ見え方をチェックする習慣が、早期発見のための強力な武器となります。
初期に現れやすい具体的な症状
・朝起きたときに片方の目だけがぼんやりとかすみ、しばらくすると改善する
・読書やスマホを見ていると、特定の文字や単語だけがにじんだり、読みにくかったりする
・視野の中に、雲や影のようなものが浮かんで見えることがある
・カレンダーの罫線やタイルなど、直線のものが微妙にゆがんで見える
・以前より光をまぶしく感じたり、明るい場所から暗い場所へ移動した際に目が慣れるのに時間がかかったりする
これらは一時的な目の疲れやドライアイの症状と混同されがちですが、大きな違いは「片方の目にだけ」「繰り返し」起こる点です。十分な休息をとっても改善しない、あるいは症状が徐々に悪化するような場合は、自己判断せずに専門医に相談することが賢明です。

