●スマホの録音が重要な証拠に
被告人は、性交等をおこなったことや、1度だけ「自殺か他殺か選べ」と発言したこと、革状の手錠や首輪を使ったことは認めた。
一方で、タオルで首を絞めたことや、「逃げれんよう裸になれ」と発言したことは否認し、「同意のもとのSMプレイだった」として無罪を主張した。
この事件で重要な物的証拠となったのが、被告人自身のスマートフォンに残されていた録音データだった。
被告人によると、元妻との話し合いでは「言った、言わない」の争いを避けるため、お互いの了承のもとで録音していたといい、この日も話し合い開始直後から録音していたという。
スマートフォンはリビングに置かれていたため、玄関や寝室などでのやり取りは聞き取れない部分もあった。しかし、録音には「自殺か他殺か選べ」「抵抗したら殺す」といった声が拾われていた。
被告人は「自殺か他殺か選べ」という発言について、自身に自殺願望があり、「自分が自殺するか他殺されるかを選べという意味だった」と説明した。
また、「抵抗したら殺す」についても、「元妻が口をモゴモゴさせていた」ため、口の中をケガしているのかと思い、確認しようとして発した言葉であり、性行為につながる脅迫ではなかったと主張した。
しかし、判決はこうした主張をいずれも退けた。
●元夫婦でも性犯罪は成立するが・・・
今回の事件では、録音データのほか、元妻の首の擦過傷について法医学者が「証言と矛盾しない」とする鑑定結果を示していた。さらに現場に警察官が臨場し、元妻から被害申告を受けている。
性犯罪は密室でおこなわれることが多く、客観的な証拠が残りにくいとされる。そのため、今回の有罪認定の背景には、被害者の証言だけでなく、それを裏付ける複数の証拠が存在したことが大きかったとみられる。
配偶者やパートナー(元配偶者や元パートナー含む)による性犯罪は、2017年の刑法改正以前から成立するとされていた。しかし、被害を申告しづらい現実などから、支援者らは明文化を求めていた。
その後、2023年の刑法改正で、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪が配偶者間やパートナー間でも成立することが条文上明記された。
ただし、元配偶者間の事件では「夫婦だったのだから同意があったのではないか」「被告人は拒否されていると認識できたのか」といった争点が生じやすく、立件や有罪認定のハードルは依然として高い。
今回の裁判でも、弁護人は「これまで性交があった元夫婦が、このときだけ同意がなかったということがあり得るのか」「(それを)被告人が認識できるのか」といった点を裁判員に問いかけていた。
今回の判決は、元夫婦という関係であっても、同意のない性行為は明確に処罰の対象となることを改めて示した事例といえそうだ。

