「Bさんの動きを全員で見習うように」
そんなある日、Bさんが取引先への同行を任されました。
長期にわたるクレームを抱えた難しい相手で、社内では「誰が行くか」と誰もが顔を見合わせていたほどの案件でした。
翌日、上司から全体にメールが届きました。
「昨日の取引先対応について、Bさんの動きを全員で見習うように」
私は自分の目を疑いました。あのBさんが? と。
まさかの『正体』
上司に詳しく聞くと、驚きの事実が明らかになりました。
Bさんは前職で10年以上、クレーム対応部門の責任者を務めていたというのです。
どんなに感情的な相手でも決して声を荒げず、相手の言葉をじっくり聞いてから的確に対応する——その姿に取引先の担当者が感激し、後日わざわざお礼の電話をしてきたそうです。
採用の決め手も、まさにその対応力でした。
「事務作業は慣れれば誰でもできる。でも、あの対人スキルは簡単には身につかない」と上司は言いました。
その言葉を聞いた瞬間、休憩室での会話が頭をよぎりました。
「なんであんな人採ったんだろうね」——都合がいいのはわかっている。でも、あの言葉を、取り消せるものなら取り消したかった。

