「努力が足りない」「やる気の問題」と誤解されやすい発達障害。しかし背景には、生まれ持った特性や脳の働きの違いがあります。正しい知識を知ることで、本人も周囲も向き合い方が変わるはずです。周囲はどんなことを理解したらよいのか、児童精神科医の鄭理香先生(こどもメンタルクリニック芝 院長)に詳しく聞きました。
※2025年10月取材。

監修医師:
鄭 理香(こどもメンタルクリニック芝)
東京女子医科大学卒業。東京女子医科大大学病院卒後臨床研修。都立梅ヶ丘病院、都立松沢病院、都立小児総合医療センター勤務。さくらクリニック、さいわいこどもクリニックなどの地域医療勤務。そのほか、特別支援学校校医、女性相談、虐待相談、産業医など。
子どもの発達障害は「努力が足りない」と勘違いされやすいのはなぜ?
編集部
なぜ、発達障害は「努力不足」と誤解されやすいのですか?
鄭先生
発達障害は外見から分かりにくく、自分でできることも多いため、「できるはずなのにやらない」「怠けている」「保護者のしつけがなっていない」と誤解されがちです。しかし実際には、注意の向け方や情報処理の仕方、感覚の受け取り方に特性があり、本人の意思や努力だけでは調整が難しいことが多くあります。
編集部
叱れば改善すると思われがちなのはなぜですか?
鄭先生
行動だけを見ると「集中していない」「約束を守らない」「わざとじゃないか」と映るため、しつけや指導で改善できると考えられがちです。しかし、発達障害は脳の特性により、同じ指示でも理解や実行が難しい場合があります。叱責を重ねることで行動が改善するとは限らず、むしろ自己肯定感の低下や二次的な不調につながることもあります。
編集部
「やる気がない」と思われることも多いと聞きます。
鄭先生
発達障害のある子どもは、興味のあることとそうでないことの差が極端に出ることがあります。そのため、特定の場面では意欲的に見える一方、別の場面では動けない様子が「やる気にムラがある」と誤解されます。しかし実際には、脳の特性による「切り替えの難しさ」が背景にあることが多いのです。
編集部
こうした誤解が子どもに与える影響もありますか?
鄭先生
「努力が足りない」と繰り返し言われることで、子どもは「自分はダメだ」と感じやすくなります。その結果、不安や抑うつ、不登校などの二次的な問題が生じることもあります。また、「また怒られたくない」という気持ちから失敗を極端に嫌がるようになり、挑戦を避けるなど消極的な態度を示すこともあります。そのため、周囲の人が発達障害に関する正しい知識を持って接することが、非常に大切だといえます。
周囲が理解すべきポイントは?
編集部
発達障害と「個性」の違いは何ですか?
鄭先生
発達障害は「個性」と表現されることもあり、線引きが難しいですが、本人や周囲がつらさを感じ、生活や人間関係に支障が出ている場合は支援が必要となります。個性と発達の特性には連続性があるとされ、発達の特性を得意分野として生かせることもあります。大切なのは「困りごと」と「強み」の両面を理解すること。強みを伸ばしつつ、困っている部分には適切な支援をおこなう視点が重要です。
編集部
周囲の人は、まずどのような視点を持つのがよいでしょうか?
鄭先生
「もしかしたら、頑張ってもできない理由があるかもしれない」という視点を持つことが第一歩です。責めるのではなく、「どうすればやりやすくなるか」を一緒に考える姿勢を持つようにしましょう。
編集部
家庭や学校での関わり方のポイントを教えてください。
鄭先生
具体的な工夫としては、まず作業を細かく分けた上で、短く簡潔な言葉で分かりやすく伝えることが大切です。また、静かな場所を確保したり、パーテーションで作業スペースを区切ったりするなど、本人が集中しやすい環境を整えることも欠かせません。さらに、できたことを一つ一つ肯定して成功体験を積み重ねていくことで、本人の自信を育むことにつながるでしょう。
編集部
理解が広がると、子どもにはどんな変化がありますか?
鄭先生
子どもは安心して物事に挑戦できるようになります。小さな成功体験を一つずつ積み重ねることで、本来持っている力を発揮しやすくなり、自己肯定感の回復にもつながります。

