急性緑内障発作を放置すると、視神経へのダメージが蓄積し、永続的な視力障害や失明につながる可能性があります。一方で、発作から早期に治療を開始することで、そのリスクを大きく下げられる可能性があります。薬物療法による緊急の眼圧降下から、レーザー治療・手術まで、どのような治療の選択肢があるのかをご紹介します。

監修医師:
柳 靖雄(医師)
東京大学医学部卒業。その後、東京大学大学院修了、東京大学医学部眼科学教室講師、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授、旭川医科大学眼科学教室教授を務める。現在は横浜市立大学視覚再生外科学教室客員教授、東京都葛飾区に位置する「お花茶屋眼科」院長、「DeepEyeVision株式会社」取締役。医学博士、日本眼科学会専門医。
急性緑内障発作と失明の関係
急性緑内障発作が最も恐れられる理由は、その先に「失明」という最悪の転帰が待っている可能性があるからです。しかし、失明は決して不可避な運命ではなく、発作のサインを正しく認識し、適切なタイミングで治療を受けることで、そのリスクを大幅に減らすことが可能です。ここでは、なぜ失明に至るのか、そのプロセスとリスクを左右する要因について詳しく解説します。
失明に至るまでの経過
急性緑内障発作による失明は、高眼圧状態が解除されないまま時間が経過することで、視神経のダメージが限界点を超えることで起こります。眼圧が著しく高い状態では、視神経への血流が途絶え、神経細胞が次々と壊死(えし)していきます。発作が始まってから6〜12時間以内に治療が開始されれば、視神経へのダメージを最小限に抑え、良好な視機能を維持できる可能性が高いとされています。しかし、治療開始が24〜48時間以上遅れると、永続的な視野障害や著しい視力低下、さらには完全な失明に至る危険性が急激に高まります。急性緑内障発作は激痛を伴うため、多くの場合は早期に医療機関を受診しますが、吐き気や嘔吐が前面に出て眼科以外の診療科を受診した場合や、夜間の発症で受診をためらった場合など、治療開始が遅れる状況は現実に起こり得るため、注意が必要です。
失明リスクを左右する要因
急性緑内障発作による失明リスクには、いくつかの要因が複雑に関わっています。第一に、最も重要なのが「発作から治療開始までの時間」です。時間が経てば経つほど、視神経のダメージは蓄積し、不可逆的になります。第二は、「治療前の眼圧の高さ」です。眼圧が極端に高いほど、視神経への圧迫と血流障害は深刻になります。第三は、「対側眼(たいそくがん)のリスク」です。片方の目で発作を起こした方は、もう片方の目も解剖学的に狭隅角であることが多く、数年以内に対側眼でも発作を起こすリスクが高いとされています。そのため、予防的な治療が極めて重要になります。第四に、元々の視神経の健康状態も影響します。もともと緑内障性の変化があったり、他の病気で視神経が弱っていたりすると、発作によるダメージがより大きくなる可能性があります。失明はあくまでも最悪の転帰であり、早期発見・早期治療によって多くの場合は回避できることを強く認識しておくべきです。
急性緑内障発作による失明を防ぐための治療法
急性緑内障発作に対する治療の最大の目標は、一刻も早く眼圧を安全なレベルまで下げ、視神経へのダメージを最小限に食い止めることです。治療は段階的に行われ、まずは薬物療法による緊急的な眼圧降下を図り、状態が落ち着いた後に、再発を防ぐための根治的な治療(レーザー治療や手術)へと移行します。失明を防ぐためにどのような治療が行われるのかを知っておくことは、いざという時の受診の意思決定にも役立ちます。
薬物療法による緊急の眼圧降下
急性緑内障発作と診断されると、直ちに眼圧を下げるための薬物療法が開始されます。まず、複数の種類の点眼薬(房水の産生を抑制する炭酸脱水酵素阻害薬やβ遮断薬、房水の産生を抑制する点眼薬(β遮断薬や炭酸脱水酵素阻害薬)を主に使用します。また、眼圧が少し下がった段階で、瞳孔を小さくして詰まった排水溝(隅角)を広げるための点眼薬(ピロカルピンなど)を併用することもあります。同時に、アセタゾラミドなどの内服薬や、マンニトールやグリセリンといった点滴は強力に眼圧を下げますが、心臓や腎臓に持病がある方には慎重に使用する必要があります。受診時には必ず持病を伝えてください。点滴は、血液の浸透圧を高めることで眼球内の水分を血管内に強制的に引き込み、急速かつ強力に眼圧を下げる効果があります。これらの薬物療法を組み合わせることで、まずは危険な高眼圧状態から離脱させ、視神経を保護することを目指します。ただし、これらはあくまで対症療法であり、隅角閉塞という根本的な原因が解決されたわけではないため、再発のリスクは残ります。
レーザー治療と手術の選択肢
薬物療法で眼圧が安定した後、または緊急性が高い場合には、隅角閉塞を根本的に解消するための治療が行われます。最も一般的に行われるのが「レーザー虹彩切開術(LI)」です。これは、レーザーを用いて虹彩の周辺部に小さな穴を開け、房水のバイパス通路を作成する処置です。これにより、虹彩の前後での圧力差がなくなり、虹彩が隅角を塞ぐのを防ぎ、発作の再発を効果的に予防します。通常は、数分で終わる治療ですが、発作後は角膜に濁りがあるために、実施が困難な場合があります。もう一つの有力な選択肢が「白内障手術」です。特に、加齢による水晶体の肥厚が隅角狭窄の主な原因である場合に非常に有効です。濁った水晶体を超音波で除去し、代わりに薄い人工の眼内レンズを挿入することで、前房のスペースが物理的に広がり、隅角が大きく開大します。これは発作の根治と再発予防に極めて効果的であり、同時に白内障による視力低下も改善できるという利点があります。どちらの治療法を選択するかは、患者さんの眼の状態や白内障の進行度などを総合的に評価し、眼科医が判断します。

