今回話を聞いたのは、健康診断のX線(レントゲン)検査で肺腺がんの疑いが判明し、肺の部分切除手術を経験されたかおりさん(仮称)です。その後の検査で初期の肺腺がんが分かり、部分切除手術を行いました。肺腺がんは日本人の誰もが発症するリスクを抱える病気です。かおりさんに、手術を受けるに至った経緯について詳しく聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2025年11月取材。
体験者プロフィール:
かおりさん(仮称)
1975年生まれ、東京都在住。診断時の職業はコールセンターオペレーター。2024年秋に受けた健康診断のX線検査で左肺の影を指摘され、精密検査の結果、肺腺がん(ステージ1)が判明。2025年3月に入院・手術を実施。術後の経過は順調で、現在は経過観察を行いながらキャリアブレイク中。
早期肺がんでは、病期や検査結果によって手術のみで経過を見る場合もある
編集部
まずは、病気が判明した経緯について教えてもらえますか?
かおりさん
2024年秋の健康診断で「左肺に影がある」と指摘されましたが、当時は全くの無症状でした。健康診断を受けた病院の医師に「がんなどの悪い病気ではないでしょうか?」と尋ねたところ、「問題ないと思います」と言われたんです。しかし「念のため大きい病院で検査を受けた方がいい」と勧められ、別の病院を受診した結果、ベテランの医師から「嫌な影ですね。これはがんの可能性があります」と告げられました。
編集部
「問題ない」と言われた直後にがんの可能性を指摘され、相当ショックを受けたのではないでしょうか?
かおりさん
はい、心底ショックでした。仕事のストレスで体調を崩した経験があり、「やっと元気になったと思ったら、次はがんだなんて。どうして私は病気ばかりしているんだろう。罰でも当たったのかな」と深く落ち込みました。また、高齢の両親より先にがんになるなんて信じられず、「もしものことがあったら……」と最悪のケースが頭の中をぐるぐると回っていました。
当時は治療の知識がなく、「がん=抗がん剤」というイメージがあり、薬で髪が抜けることへの恐怖や、胸の近くに手術の傷が残ることへの抵抗感が強かったですね。しかし、最初の医師が「早期なのでしっかり治療することをおすすめします」とすぐに肺がんに詳しい医師に引き継いでくれ、治療へ進めたのはラッキーでした。あの時に見逃されていたらと思うと、今でもゾッとします。
編集部
医師からどのような治療方針が提示されたのですか?
かおりさん
第一選択として手術を勧められました。初診の段階では、「手術で切除したものを検査し、良性か悪性かを調べる」とのことでしたね。私の場合は、病変の状態や検査結果などから、抗がん剤や放射線治療は行わず経過を見る方針と説明されました。
がん治療をしていても「やりたいことをやる」
編集部
入院中、印象に残った出来事があれば教えてください。
かおりさん
手術前夜に怖くなってしまい看護師の前で泣いてしまったことですね。すると、同室だった70代くらいの女性が「私は希少がんの上にもう手術ができないのよ。手術が受けられるなんてラッキーじゃない。思い切って行ってらっしゃい」と笑顔で送り出してくれたんです。つらい状況でも「笑うしかないでしょう」とすてきな笑顔を絶やさない彼女の姿を見て、「必ずがんを克服する」と気持ちのスイッチを切り替えられました。
手術当日は小学校低学年のお子さんも同じ時間帯に手術があり、幼い子が一人で立ち向かう姿に勇気づけられましたね。子どもは堂々としているのに、大人の私が「怖い」と言っているのは恥ずかしいじゃないですか。入院中にあったさまざまな気付きは、今でも大切にしています。
編集部
術後の経過は順調でしたか?
かおりさん
執刀医から「たばこ以外に日常生活の制限はありません。やりたいことはどんどんやってください」と言われていたため、術後1カ月ほどたった2025年4月に職場復帰を果たしました。ただ、6月くらいまでは術後の痛みがあり、鎮痛剤と湿布でケアをしながら仕事をしていましたね。また、声を使う仕事だったため、肺の一部を切除した後に声を出していいのか戸惑いましたが、執刀医の「声を出すのは肺の回復にいい」というアドバイスのおかげで、すぐに感覚を取り戻せました。
しかし、全身麻酔でメスを入れたことによる体への負担は大きかったようで、その年の夏の猛暑で体調を崩してしまいました。その後、上司やがん相談支援センター(全国のがん診療連携拠点病院などに設置されている、がんに関する無料の相談窓口)に連絡し、休職させてもらうことになったんです。
編集部
休職後、どのように体調を整えていったのでしょうか?
かおりさん
食事と運動を意識し、気持ちを整理しながらしっかりと休み、体調を整えていきました。術後は呼吸機能や体力が一時的に低下することがあるため、回復のために散歩やダンスエクササイズなども取り入れましたね。走るのは大の苦手でしたが、肺の回復のために術前からランニングもしており、おかげで体が引き締まっていい感じです。身近なものでは「発がん性」という言葉に反応するようになり、食べ物や化粧品にも気を使うようになりました。振り返ると、日頃お世話になっているかかりつけ医・鍼灸(しんきゅう)師、趣味の芸術鑑賞、日々のセルフケアも、気持ちを整える支えになっていたと思います(※)。日々の課題を可視化するために日記をつけたり、ChatGPTにつらい気持ちを相談したりすることも、心の支えになっていたと思います。
※自然療法などを取り入れる場合も、標準的ながん治療の代替ではなく、主治医と相談しながら行うことが大切です
編集部
現在の調子はいかがですか?
かおりさん
おかげさまで気力・体力ともに回復しつつあり、以前と変わらない生活を送れています。いろいろな取り組みのおかげにより、9月には時短勤務で再復職も果たしました。オフの日は美術館や公園、ショッピングなど、たくさん歩いて術前と変わらない休日を楽しんでいます。
編集部
病気を経て、考え方や生活に変化はありましたか?
かおりさん
仕事面でいうと、顧客への寄り添いが以前よりも得意になった気がします。さらに、助けてもらった命を最大限に生かしたいと思い、6月ごろから女性のためのオンラインキャリアスクールでパソコンやビジネススキル、ライティングなどを学び直し始めました。「人生100年時代」などとのんびり構えなくなり、やりたいことはためらわずにやろうという気持ちになっています。
編集部
治療中、支えてくれた医療従事者に伝えたいことがあれば教えてください。
かおりさん
忙しい中でも一人ひとりの患者さんに向き合う医師の姿勢は素晴らしく、心から感謝しています。執刀医以外の医師や看護師も大変親切で、会社に提出する書類をもらう際は、事務員の迅速な対応にも助けられました。医療従事者の細やかな気遣いのおかげで、安心して治療を受けられたと思います。
編集部
最後に、読者へメッセージをお願いします。
かおりさん
がんは今や日本人の2人に1人がかかる一般的な病気です。私の場合は早期発見で治る可能性があるタイプの肺腺がんでしたが、最初は無症状のため、1年に1回の健康診断を受けてほしいですね。「がん」と告知されれば誰でも頭が真っ白になると思います。でも、早期に見つかり適切な治療につながれば、治療後に日常生活へ戻れる可能性があります(※)。病気になるのも人生の一部です。そして、悲観的になるのも病気から何かを学ぶのも自分次第です。闘病中は一人で抱え込まず、主治医や看護師、がん相談支援センターのスタッフなどに甘えて相談してください。相手は傾聴のプロなので本音を引き出してくれます。病気を抱えていてもやりたいことをやる姿勢が大事だと思います。
※回復には個人差があります

