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「うまくいかないのは思考が足りないから」という暴力 よくある「自己啓発本」に共感できないワケ

「うまくいかないのは思考が足りないから」という暴力 よくある「自己啓発本」に共感できないワケ


自己啓発本の中には「うまくいかないのはあなたの思考が足りないからだ」という構成になっている本も(画像はイメージ)

【画像】知らなかった…これが、他人の「悪口」をよく言う人の“特徴”です

 「思考が現実化する」と聞くと、私はだいたい身構えます。書店の自己啓発コーナーに行けば、似たようなタイトルが棚一段分並んでいます。

「願えばかなう」「引き寄せの法則」「あなたの人生はあなたの思考次第」などの言葉は一見、心地よく聞こえるのですが、突き詰めると「うまくいかないのはあなたの思考が足りないからだ」という構造になっていることが多いのです。

 現実に打ちのめされた人が、手に取った本からも「あなたのせいだ」と打たれてしまいます。これは読者を二度殴るような論理であり、励ましの顔をした暴力です。だから身構えてしまうのです。今回は「わたしを変える魔法 フラクタル心理学でもっと幸せな未来をつくる」(白石美帆著、同文舘出版)を紹介します。

精神論ではなく構造論である

 フラクタルとは、もともと数学・自然科学の言葉です。これは「相似形」という小さなものと大きなものが、同じ構造を縮小・拡大して存在する現象を指します。海岸線の入り組み方。シダの葉の一枚と全体。ブロッコリーの一房と全体。比喩ではなく、自然界に普通にある構造です。

 この発想を心に応用するとこうなります。心の中の小さな葛藤と、外で起きている大きな対立は、同じ構造をしている可能性があります。家庭での口論と国家間の紛争のロジックが、サイズだけ違って実は同じ。そう言われると、急に違う絵が見えてきます。

「思考が現実化する」と言われると軽く感じますが、「同じ構造が拡大されて環境に出ている」と言われると、不思議と納得できます。フラクタル心理学の核心は精神論ではなく、構造論なのです。

 私自身、ある時期に職場で同じパターンの人間関係トラブルを繰り返していた経験があります。相手が変わるのに、なぜか起きることがいつも似ていました。

 当時は「運が悪い」と思っていましたが、今になって振り返ると、自分の心の中にあった同じ葛藤が、相手を変えながら同じ形で現れていただけだったのかもしれない、と思います。これは職場に限った話ではありません。本書には、もっと長い年月を同じ構造の中で生きてきた女性が登場します。

50代で初めて「すてきだな」と感じた女性

 私が仕事で書籍を紹介していると、「何歳からでも人生は変えられます」というフレーズに年に何百回と出会います。だいたい話半分に読み流しますが、たまに本当にそう思える話に行き当たることがあります。

 本書に登場する優子さん(仮名)がそうでした。複雑な家庭環境で育ち、50代になっても心の奥に諦めを抱えていた彼女が、フラクタル心理学を学んで1年後、こう言ったといいます。

「ものを見て『すてきだな』って感動したり、いつものジムの光景なのに、人が楽しそうに会話しているのを見て『なんかいいな』と感じるようになったんです。これまで一度もそんなふうに思ったことがなかったので、そう感じられる自分がうれしくて」
この一節を読んで、手が止まりました。

「すてきだな」「なんかいいな」など、そんな当たり前のことを、50代になって初めて感じたと、本人が言っているのです。逆に言えば、それまでの半世紀あまり、彼女の世界にはそれが存在していなかったということになります。あまりに重い告白です。書評として、軽く流せるものではありません。

 優子さんはその後、パートナーと出会い、2人で事業を始め、ウエディングドレスを着ることを夢見るようになります。50代になってからのことです。彼女がやったのは、心の中の「もうダメだ」という解釈を、別の解釈に書き換えたことです。

 パートナーも事業も、その後についてきた変化にすぎません。先に変わったのは世界の側ではなく、世界に向ける本人の温度の方でした。

配信元: オトナンサー

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