医療ソーシャルワーカーは、病気やけがによって生じる生活上の困りごとを、社会福祉の視点で支える専門職です。入院費の不安、退院後の生活、介護サービスの利用、転院先の調整など、医療だけでは解決しにくい課題を相談できます。
本人の病状が落ち着いても、自宅での介護体制や通院手段が整わなければ、退院後の生活に支障が出ることがあります。家族だけで判断しようとすると、制度や手続きの確認に時間がかかる場合もあります。
医療ソーシャルワーカーへ相談すると、医療機関内の職種や地域の窓口と連携しながら、利用できる制度や支援先を確認できます。この記事は、医療ソーシャルワーカーの役割、相談できる内容、相談方法、活用するポイントを扱います。

監修作業療法士:
稲木 康平(作業療法士)
経歴:回復期病棟で約9年ほど、患者様やご家族様のニーズに合わせたリハビリテーションを実施する。また、数多くの患者様に対して、退院後に快適な生活を過ごされるための自宅の環境調整や、介護サービスの提案、家族指導も行ってきた。
資格:作業療法士免許、医療経営士3級
医療ソーシャルワーカーとは

医療ソーシャルワーカーは、医療機関で本人や家族の療養生活を支える相談職です。病気の診断や治療ではなく、生活、介護、仕事、経済面、地域資源とのつながりに焦点を当てます。
医療ソーシャルワーカーの定義
医療ソーシャルワーカーは、医療機関等の管理者のもとで、社会福祉の立場から支援を行う職種です。専門的な知識や技術に基づき、医療やケアに関わる多職種と連携します。
医療機関によっては、MSWと呼ばれることもあります。社会福祉士や精神保健福祉士が担当するケースもあります。
相談内容は、病気そのものだけではありません。本人の生活歴、家族構成、住まい、収入、介護力を踏まえ、必要な支援につなぎます。
参照:『医療ソーシャルワーカー業務指針の全部改正について』(厚生労働省)
医療機関に配置されている背景
医療機関に医療ソーシャルワーカーが配置される背景には、医療と生活のつながりがあります。入院期間が限られるなかで、退院後の生活を早い段階から考える必要があるためです。
病気やけがをきっかけに、介護、住まい、仕事、家計の問題が同時に表面化することがあります。退院後の暮らしを支える調整が欠かせません。
また、地域包括ケアシステムの広がりにより、医療機関と地域の介護サービスが連携する機会も増えています。医療ソーシャルワーカーは、医療機関と地域をつなぐ役割を担います。
ケアマネジャーや看護師との違い
医療ソーシャルワーカー、ケアマネジャー、看護師は、それぞれ支援の視点が異なります。役割の違いを知ると、相談先を選びやすくなります。
医療ソーシャルワーカーは、医療機関内外の制度や支援先を調整する職種です。医療費、退院、転院、生活上の不安などを相談できます。病気やけがによって生じた暮らしの課題を、社会福祉の視点から支えます。
ケアマネジャーは、介護保険サービスの利用を支える職種です。訪問介護、デイサービス、福祉用具などの利用に向けて、ケアプランを作成します。退院後に介護サービスが必要な場合は、ケアマネジャーとの連携が欠かせません。
看護師は、医療的なケアや療養上の観察を担う職種です。症状、服薬、処置、療養中の体調について相談しやすい相手です。入院中は、日々の体調変化や生活動作を把握しているため、退院支援にも関わります。
医療ソーシャルワーカーは、介護保険サービスを直接決める職種ではありません。必要に応じて、ケアマネジャーや地域包括支援センターにつなぎます。相談内容に合う専門職へ橋渡しすることも役割の一つです。
参照:『介護支援専門員(ケアマネジャー)』(厚生労働省)
医療ソーシャルワーカーの4つの役割

医療ソーシャルワーカーの支援は、退院時だけに限られません。入院中、外来通院中、在宅療養中にも関わることがあります。ここでは、介護を考える家族が知っておきたい4つの役割を取り上げます。
心理面・社会面のサポート
病気やけがをきっかけに、本人や家族は不安を抱えることがあります。家に戻れるのか、仕事を続けられるのかといった悩みも生じます。
医療ソーシャルワーカーは、こうした心理面と社会面の課題を聞き取ります。必要に応じて、医師、看護師、リハビリ職と情報を共有します。
支援の目的は、本人が納得して療養生活を選べるようにすることです。家族の意向だけで進めるのではなく、本人の希望や価値観も確認します。本人の意思を支える調整役として関わる点が特徴です。
退院支援と転院調整
退院支援は、医療ソーシャルワーカーの代表的な役割です。退院後に自宅へ戻る場合は、家族の介護体制、住宅環境、通院手段、利用できる介護サービスを確認します。
自宅での生活が難しい場合は、転院や施設入所の選択肢を検討します。回復期リハビリテーション病院、療養病床、介護老人保健施設など、候補は本人の状態や目的で異なります。
ただし、医療ソーシャルワーカーが一方的に行き先を決めるわけではありません。本人や家族の希望、医師の見通し、受け入れ先の条件を確認しながら進めます。退院日が近づく前に相談することが、選択肢を狭めないためのポイントです。
社会復帰に向けた支援
医療ソーシャルワーカーは、退院後の社会復帰も支援します。社会復帰には、仕事への復帰だけでなく、学校や家庭内での役割に戻ることも含まれます。
病気の後遺症や体力低下がある場合、以前と同じ生活にすぐ戻ることは難しい場合があります。通勤時間、勤務内容、通院頻度、服薬管理、介護との両立を踏まえた調整が必要です。
本人が働いている場合は、職場への伝え方や利用できる制度を相談できます。学生の場合は、復学時期や学校生活で必要な配慮を検討します。治療と生活を両立するための橋渡しも医療ソーシャルワーカーの役割です。
医療費や経済面のサポート
入院や治療が長引くと、医療費や生活費への不安が強くなります。医療ソーシャルワーカーは、利用できる公的制度や相談窓口を確認し、手続きの流れを案内します。
相談できる制度には、高額療養費制度、限度額適用認定証、傷病手当金、障害年金、生活保護などがあります。使える制度は、年齢、保険の種類、収入、病状で異なります。
経済面の相談は、支払いが難しくなってからではなく、見通しが立たない段階で始めると進めやすくなります。入院費の概算や利用できる制度を早めに確認しましょう。

