損したくないという理論に店内が凍りつく
「女性は明らかに不機嫌になり『そんなのいちいち細かく制限してたら、サービスの意味ないじゃない! 第一、私ちゃんとお金払っているんだから。損しないようにするの、当たり前でしょ?』とまくし立て始めて……いやいや、もちろん意味はあるし、それはあなたの勝手な考えでしょ? と心の中で反射的にツッコんでしまいましたね」ルールより自分が得するかどうかを優先する身勝手極まりない言い分に、周囲は完全に静まり返ってしまったそう。
誰も何も言えないまま、まるで時間が止まったようでした。
すると店員さんが「お客様、損をしないことと、ルールを守らないことは、同じではございません。当店のルールに反するご利用は、お断りしております」と、静かに、でも一層はっきりと言い切りました。毅然とした対応に、店内から静かな拍手
「女性は一瞬口を開きかけましたが、周囲の視線が自分に集まっていることに気がついたのか、急に目が泳ぎだしました。『まったくうるさいわね、こんな店こっちから願い下げよ!』と吐き捨てるように言うと、水筒をバッグに押し込み、そそくさとレジに向かって早足で去っていったんですよ」さっきまでの強気な態度とは打って変わって、逃げるように店を出ていく後ろ姿が妙に印象的だったそう。
自動ドアが閉まったあと、店内にわずかなざわめきが起こりました。
「お店のあちこちで『すごかったね』という声が漏れ、私も思わず胸の奥で大きな拍手をしていました。ただ強く言うんじゃなくて、ちゃんと線を引いて、でも相手を必要以上に傷つけない絶妙な言い方がかっこよかったんです。さっきまでのモヤモヤがスッと晴れていくような清々しさがありました。」
「それ以来、そのファミレスで例の女性店員さんを見かける度に、ホッとするような安心した気持ちになるんですよね」と微笑む日奈子さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop

