商談の場で問われた20年前のこと
実際の商談の日、問題が起きました。お得意さまの社長が、資料には載っていない「20年前の契約時の特殊な条件」について、鋭く質問してきたのです。データをもとに準備していた彼は、その質問に答えることができませんでした。さっきまで自信に満ちていた表情は一変し、顔を真っ青にして言葉を失いました。
そのとき私は、当時の手書きの記録から記憶していた詳しい経緯を思い出しながら、契約に至るまでの流れを丁寧に補足しました。さらに、先代社長から引き継がれてきた思いについても、私の知る範囲でお伝えしました。
すると社長は、深くうなずきながら「そうだった。あのときの恩は忘れていないよ。覚えていてくれてうれしい」と言ってくださったのです。そして、その場で契約を継続していただけることになりました。
帰りの車中で下げられた頭
商談を終えた帰りの車中、あれほど強気だった彼が、消え入るような声で「すみませんでした。助かりました」と言いました。そして、私に深々と頭を下げたのです。
その瞬間、ずっと胸の奥に引っかかっていたものが、すっと取れたような気がしました。自分の経験が誰かの役に立ったことも、これまで積み重ねてきた仕事が無駄ではなかったと感じられたことも、本当にうれしかったです。
この出来事を通じて、技術がどれほど進歩しても、人と人との信頼関係や、長年積み重ねてきた経験の重みは色褪せないのだと感じました。

