家庭用ゲーム機「PlayStation」を展開するソニー・インタラクティブエンタテインメントの下した決断が、ゲームファンの枠を超えて大きな波紋を広げている。同社は、2028年1月以降に発売するPlayStationの新作ゲームについて、物理ディスク(パッケージ版)の生産を終了すると発表したのだ。
この「脱・ディスク」の流れを受け、世界的なゲームクリエイターであり、映画への深い造詣でも知られる小島秀夫氏が海外の映画祭で語った警告が、いまネット上で強い関心を集めている。その内容は、日頃から映画や音楽を「サブスク」で楽しんでいる一般のユーザーにとっても、決して他人事ではない「デジタル社会の落とし穴」を突くものだった。
私たちは「蛇口をひねる権利」を買っているだけ
「DEATH STRANDING」や「METAL GEAR SOLID」シリーズなどの人気ゲームで知られる小島氏は4日(日本時間5日)、イタリア・ローマで開催された映画祭「Il Cinema in Piazza」に登壇した際、ゲームのディスク生産終了の話題に言及。自身を「フィジカル(物理メディア)育ち」と語る小島氏は、今回の決定を「非常に悲しい」としたうえで、最近は熱心に映画のBlu-rayやCDを買い集めていると明かした。
ゲームの場合、現状はまだゲーム機本体にデータをダウンロードするため、「自分のハードにデータは残る」という段階にある。しかし、小島氏が真に「恐怖」として警鐘を鳴らすのは、その先にある「完全ストリーミング社会」の到来だ。
小島氏は、NetflixやAmazon Prime Videoなどの動画配信サービスを例に挙げ、現代のストリーミングによるコンテンツ視聴を「蛇口」になぞらえて以下のように語った。
「どこかにサーバーがあって、そこの蛇口をひねる権利だけがあって、自分がひねると、サーバーの中のデータが出てくる。自分はそのデータを持っていないわけですね」
月額料金を支払って作品を見るユーザーは、作品そのものを所有しているわけではなく、あくまで「企業のサーバーにある蛇口をひねらせてもらっているだけ」にすぎないという指摘である。さらに小島氏は、国や政治、思想といったものが変化すれば、ある日突然そのデータが配信されなくなるリスクは当然考えられるとし、「自分の好きだった映画とか、ゲームが、遊べなくなる(見られなくなる)。そこが恐怖」だと訴えた。
さらに、「2028年にゲームで起こることは、映画でも起こるかもしれません」と述べ、これがゲーム業界にとどまらない問題であるとの認識を強調した。
「お金を払って買ったのに消える」はすでに現実?
小島氏による今回の発言は、2021年に自身がX(当時はTwitter)に投稿した内容をあらためて補強するようなものだ。当時のポストで小島氏は、「いずれデジタルデータでさえ、個人主導で所有出来なくなる」として、社会や風潮の変化によってデータへのアクセスが不可能になるおそれを指摘。PlayStationのディスク生産終了発表を受け、この投稿が再び注目を集めていた。
この「デジタル配信の危うさ」は、決して大げさな未来予測ではない。実際、ユーザーの「所有権」を揺るがす事態はすでに起きている。
海外では、ソニーが500本以上の映画作品をPlayStation Networkのライブラリから削除し、すでに購入済みであったとしてもアクセスできなくなると通知したことが大きな議論を呼んでいる。お金を払って自分のものにしたはずの作品であっても、プラットフォーム側の都合で「蛇口」が閉まれば、ユーザーは二度とアクセスできなくなるという現実がすでに示されているのだ。これは日本国内を含め、世界中のどのユーザーにとっても起こり得るリスクと言える。
そうした状況のなか、デジタルコンテンツの「所有権」について警鐘を鳴らした小島氏の発言は、X上で翻訳され海外でも広く拡散。日本国内のファンからも、「小島秀夫が物理ディスクの生産終了について、きちっと批判的なコメントを残したのはとても意味あることだと思う。流石です」といったコメントが相次いでいる。

