夫と出会ったころ、私は「穏やかでやさしい人だな」という印象を持っていました。私の家族とも自然に会話をし、誰に対しても気づかいができる人です。しかし付き合い始めてしばらくすると、あることに気づきました。それは、夫が自分の家族の話になると急に口数が少なくなることです。当時は理由がわかりませんでした。しかし結婚後、少しずつ夫の過去を知ることになったのです。
家族の話になると表情が変わる夫
夫は普段、本当によく笑う人です。ところが、自分の両親や兄弟の話になると、表情がすっと消えてしまいます。
ある日、私は何気なく「兄弟とは仲がいいの?」と聞いてみました。
すると夫は少し考えたあと、静かにこう言ったのです。
「俺はいい兄じゃなかったから。たぶん嫌われてるよ」
冗談を言うような口調ではありませんでした。
それ以上踏み込んで聞くことができず、その日は話題を変えました。しかし、夫の寂しそうな表情がずっと心に残っていたのです。
「長男なんだから」と言われ続けて
結婚してからしばらく経ったころ、夫は少しずつ自分の過去を話してくれるようになりました。
夫は4人兄弟の長男です。年の近い兄弟が続いたこともあり、両親は毎日忙しかったそう。そのため夫は、幼いころの多くを祖父母の家で過ごしていました。
そして実家へ戻るたびに、両親から繰り返し言われた言葉がありました。
「長男なんだから」
弟たちの面倒を見ること。我慢すること。しっかりすること。夫は幼いころから、「長男だから」という理由で多くを求められていると感じていたそうです。
「俺は兄になりたくてなったわけじゃないのに」
そう思いながらも、その気持ちを誰にも理解してもらえなかったと話してくれました。
大人になった今でも、夫は当時の両親を責めることはありません。ただ淡々と話す姿からは、その思いを長い間ひとりで抱えてきたことが伝わってきたのです。

