放送中の大河ドラマ「豊臣兄弟!」(NHK総合ほか)の脚本を担当する八津弘幸氏のインタビュー。その模様を3回に分けて紹介する。
【その1】悩んだ信長像、小栗旬から「一緒に背負うから、思いっきりやりたいことを」と言われ覚悟決まる
脇役が光る漫画は名作
――豊臣兄弟の周りにいる登場人物のキャラクターが非常に濃くて、目がいってしまうことも少なくありません。兄弟を立たせつつ、周辺人物もバランスよく描かなくてはならない難しさはありますか?
「小一郎と秀吉を取り囲む魅力的なキャラクターはたくさんいて、そういう方々のエピソードを描くと2人が霞んでしまわないかという懸念はありました。でも僕の中では、小一郎と秀吉、2人の目を通して周りの人たちを描くことを常々意識しているので、周りの人たちが輝いて見えるのは、あの2人のおかげなのではないかという気がしています。実は、その小一郎と秀吉をバランスよく描く難しさもあって、トリッキーなキャラクターの秀吉のほうが目立ってしまうのではないかという心配も最初の頃はありました。ですが、実際に書いてみたら、小一郎がいるから秀吉なんだよなと感じるようになって。そういう意味では、すべてのキャラクターがいい具合に絡み合って、それぞれ魅力的に見えているのではないかというふうに思っています。大河ドラマの長さを考えると、そうして周りのキャラクターが魅力的になっていくのは決して悪いことではないと思っています。連載漫画でも人気投票を募ると、主人公は大体3位とか4位なんですよ。1位、2位を取るのは周りのキャラなんですよね。そういう漫画は名作だし、今作でもそういう要素はふんだんにあって、でも最後はやっぱり豊臣兄弟の物語になっていくと思って、僕は書いています」
史実とフィクションのバランス
――第27回の、信長が安土城を訪れた徳川家康(松下洸平)を接待する場面で、信長に出された鯉の煮つけに信澄が毒を盛っていたことが発覚し、その後、信長のいないところで、実は家康も信長を毒殺するための毒を持っていることを明かすという二重のサプライズが盛り込まれていました。あの展開を発想した経緯をお聞かせください
「家康の接待が行われたというのはおそらく史実で、ほかの作品でも描かれてきました。今回は、まずもって明智光秀(要潤)を追い詰めるという目的があって、なおかつ信澄も絡ませなければいけなかったので、毒を盛ったのが信澄だったら光秀はあの場で言えないだろうなと考えて、ああいう形にしました。
家康のキャラクターは、今回僕の中では面白く書けているような気がしているんですが、面白く書けているからこそ、辻褄を合わせるのに苦労しています。信長が危うく毒殺されかけるところに居合わせたら、家康はそんなに素直に物事を受け止める人ではないと思ったので、妻子の仇を討ちたいという信長への復讐心をのぞかせつつ、そんな自分を抑えるために毒を持ち歩いていることにすると深みが出るかなと思いました。思いつき、ひらめきのきっかけが特にあるわけではなくて、ひたすら考えてそうなったという感じですね」
――大河ドラマという長期にわたって放送される作品の脚本であること、また、歴史を扱うドラマで、自由な解釈を楽しむ視聴者もいれば、厳密に史実を重視する視聴者もいるなかで、執筆するうえで気を付けた部分、これまで手掛けた脚本と違うところは?
「まず、大河ドラマはやっぱり長くて、後半に行くに従いどんどん余力も削られていっています。それでもなんとか最後まで面白くしたいという思いでやっているんですが、こんなふうに自分のキャパシティーを超えているかもしれないと思ったことは今までありません。だからそれを楽しみたい、かみしめたいと思いながらやっております。
歴史を扱うということに関してですが、実は引き受ける時点で、絶対避けて通れない縛りがあることが、自分に向いているかどうかと悩みました。でも、豊臣兄弟を描くのであれば楽しそうだ、ワクワクできそうだという気持ちも大きかったので、面白く書けるんじゃないかと思いました。戦国時代の物語は、これまでもたくさんつくられてきているので、それをいかに『豊臣兄弟!』ならではの面白さで伝えられるかということを常に意識して書いています。
もちろん、誰がどこで死んだかというような、信頼できる史料があって動かしようのない史実、絶対にいじっちゃいけない部分は、冒さないようにしようと心がけています。でも想像力をちょっと働かせて、ここまでだったら行けるんじゃないかというところは極力攻めようと思っています。今の人たちが見て面白く感じられるように新しい解釈を入れていけたらと思いながら書いています。
いろんな方の意見があって、賛否があるのも承知はしていますが、勉強になることもありますし、ありがたいこと、大河ならではと思いながら楽しんでやらせてもらっています。大河ドラマを、2作、3作と書かれている脚本家の方もいらっしゃいますが、1回できれば本当に幸せなことです。やっぱり悔いは残したくありませんから、自分が描きたいものは何なのかということだけは見失わないように書いています。史実を重んじる方々のご意見とは違うところなのかもしれませんが、『いい』と言ってくださる方がたくさんいるのもわかっているので、それを励みに最後まで頑張りたいです」
(つづく)
【その3・完】戦国の世は現在まで地続き…最後まで見終わった視聴者の目に1つの希望のように映れば

