橋本病の検査結果をみて、「TSHが高いと言われたけれど大丈夫なのか」「FT4や抗体の数値は何を意味するのか」と疑問に感じる方もいるでしょう。
橋本病では、TSHやFT4、FT3、甲状腺自己抗体などの数値を確認しながら、甲状腺の働きや病気の進行状況を評価します。
本記事では、橋本病で確認する主な検査項目や数値の見方、治療の判断基準、よくある疑問を解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医・指導医、日本緩和医療学会認定登録医、禁煙サポーター
橋本病でみる主な数値

橋本病ではどのような数値を確認しますか?
橋本病では、甲状腺の働きを評価するために、主にTSH(甲状腺刺激ホルモン)、FT4(遊離サイロキシン)、FT3(遊離トリヨードサイロニン)の数値を確認します。橋本病は自己免疫によって甲状腺に慢性的な炎症が起こる病気であり、進行すると甲状腺ホルモンの分泌が低下する場合があります。そのため、甲状腺が十分に機能しているかを血液検査で評価することが重要です。
また、橋本病の診断や評価では、抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体などの甲状腺自己抗体を測定することもあります。これらの検査結果を総合的に判断して、橋本病の有無や甲状腺機能低下症の程度を確認します。
TSHの数値が示す意味を教えてください
TSHは、脳の下垂体から分泌されるホルモンで、甲状腺に対して「もっとホルモンを作るように」と指令を出す役割があります。橋本病によって甲状腺の働きが低下すると、身体は不足した甲状腺ホルモンを補おうとしてTSHの分泌を増やします。そのため、橋本病による甲状腺機能低下症ではTSHが高値になることが一般的です。
一方、FT4がまだ正常範囲内であってもTSHだけが高くなっている状態は潜在性甲状腺機能低下症と呼ばれます。これは甲状腺機能低下症の初期段階としてみられることがあり、橋本病でもよく認められます。
甲状腺ホルモン(FT4・FT3)の数値は何を表しますか?
FT4とFT3は、実際に体内で働いている甲状腺ホルモンの量を示す数値です。FT4は甲状腺から最も多く分泌されるホルモンで、FT3はFT4から変換されて作られる活性の高いホルモンです。これらのホルモンは代謝や体温調節、心臓や脳など全身の働きに関与しています。
橋本病によって甲状腺機能が低下すると、FT4やFT3の値が低下し、代謝が低下した状態になります。その結果、疲れやすさ、むくみ、寒がり、体重増加、便秘などの症状が現れることがあります。
一般的に、橋本病による甲状腺機能低下症ではTSHが高く、FT4が低いという組み合わせがみられます。
参照:
『橋本病(慢性甲状腺炎)』(日本内分泌学会)
『甲状腺機能低下症』(日本内分泌学会)
『潜在性甲状腺機能異常』(日本内分泌学会)
橋本病の数値の見方と判断

TSHが高いと橋本病なのですか?
TSHが高いからといって、橋本病とは限りません。TSHは、脳の下垂体から分泌されるホルモンで、甲状腺ホルモンが不足すると増加する性質があります。そのため、TSH高値は甲状腺機能低下症を示唆する所見の一つですが、その原因は橋本病以外にも存在します。
例えば、橋本病による甲状腺機能低下症のほか、甲状腺手術後や放射線治療後、薬剤の影響などによってもTSHが上昇することがあります。
橋本病かどうかを判断するためには、TSHだけでなくFT4やFT3、抗TPO抗体(TPOAb)、抗サイログロブリン抗体(TgAb)などの検査結果を総合的に評価する必要があります。
抗体(TgAb・TPOAb)の数値は何を意味しますか?
TgAbとTPOAbは、甲状腺に対する自己抗体です。TgAbは、甲状腺ホルモンの材料となるサイログロブリンというタンパク質に対する抗体です。一方、TPOAbは、甲状腺ホルモンを作る過程に関わる甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)という酵素に対する抗体です。橋本病は、免疫が誤って甲状腺を攻撃するため、これらの自己抗体が陽性になることが多くあります。TPOAbは橋本病で高頻度に認められる自己抗体であり、甲状腺の慢性的な炎症と関連しています。一方、TgAbも橋本病の診断に役立つ検査項目の一つです。
ただし、抗体が陽性だからといって必ず甲状腺機能低下症を発症するわけではありません。実際には、自己抗体が陽性でも甲状腺機能が正常な状態のまま経過する方も少なくありません。
そのため、抗体の有無だけではなく、TSHやFT4などの甲状腺機能検査と併せて評価することが重要です。
数値はどのくらいで治療を考えますか?
橋本病の治療は、抗体の数値だけではなく、甲状腺機能の状態や症状を総合的に判断して決定します。一般的には、TSHが高く、FT4が基準値を下回っている顕性甲状腺機能低下症の場合、甲状腺ホルモン補充療法が検討されます。
一方、TSHのみ高くFT4が正常範囲内の潜在性甲状腺機能低下症では、治療が必要とは限りません。TSHの上昇程度や年齢、妊娠希望の有無、症状の有無などを考慮しながら治療方針を決めます。
特にTSHが10mIU/L以上の場合は治療が検討されることが多い一方で、軽度の上昇では経過観察となるケースもあります。
橋本病では数値の変化だけでなく、倦怠感やむくみ、寒がり、体重増加などの症状も重要な判断材料となるため、自己判断せず主治医と相談しながら治療方針を決めることが大切です。
参照:
『橋本病(慢性甲状腺炎)』(日本内分泌学会)

