●本件では、どんな困難があるのか
こうした回収の難しさは、本件でも大きな問題となっています。
報道によると、元生徒7人は判決確定後も自ら支払おうとせず、給与の差押えがされたと報じられています。
しかし、うち3人については、その差押えもできていないとのことです。今回の3度目の訴訟は、この3人を相手取ったものとのことです。
給与の差押えができたとしても、賠償金全額を回収するには長い時間がかかります。
給料は生活の原資であるため、原則として手取り額(支払期に受けるべき給付)の4分の1までしか差し押さえることができません(民事執行法152条)。
賠償額は遅延損害金を含めて1億円を超えており、月々の給料の一部からの回収では、完済への道のりは遠いのが実情です。
しかも、相手が転職や退職をすれば差押えの効力はそこで途切れ、改めて新しい勤務先を突き止めなければなりません。
一方、差押えに至っていない3人については、まず「差し押さえるべき財産」を見つけるところから始めることになります。
もっとも、本件の遺族が使える制度もあります。
生命や身体の侵害による損害賠償請求権を持つ債権者は、裁判所を通じて、市町村や厚生年金保険関係の機関などから相手の勤務先の情報を取得できます(民事執行法206条)。
先に財産開示手続を経る必要があるなどのハードルはありますが、数少ない有力な手段です。
それでも、相手に財産がなければ、手続を尽くしても回収はできません。判決は「支払え」と命じるだけで、支払える資力を生み出してくれるわけではないのです。
●なぜ同じ裁判を3度も起こす必要があったの?
確定した判決も、判決確定から10年で時効になります(民法169条1項)。
せっかく勝訴判決を得ても、時効により相手が支払いを拒めるようになってしまいます。
そこで、時効が完成することを防ぐため、同じ内容の裁判を起こします。再び勝訴判決が確定すれば、時効の進行をリセットできます。これを「時効の更新」といいます(民法147条1項・2項)。
今回のケースでは、遺族側は3度目の訴訟を起こして判決を得ることで、時効を止めようとしたものと考えられます。
「逃げ得」を許さないためには、強制執行やその前提となる財産調査の制度を、さらに拡充する必要がある。そうした声は、弁護士の間で以前からあがっています。
小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

