「〜さえ」「絶対〜」の表現には要注意
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――なぜ、人は「エセ科学」を信じてしまうと思いますか?
あやか:現象が目に見えないことが不安や恐怖につながり、エセ科学を信じるきっかけになっていると思います。大昔に、写真が普及しはじめたときに「写真を撮ると魂を抜かれる」と言われていましたよね。それと同じ話だと思っています。
例えば、スマホで使われている通信規格の5Gについても、新しく登場した当時は、身体への影響が今以上に騒がれていましたよね。ですが、5Gが人体に影響を及ぼすという科学的根拠はありません。簡単に説明すると5Gで使われている電波は、これまで私たちが使ってきた3Gや4Gの携帯電波や、家のWi-Fiなどと同じ電磁波の仲間だからです。
ネットの一部では「遺伝子を傷つける」「がんになる」といった過激な噂もありますが、5Gの電波にはX線や放射線のような細胞を傷つける強いエネルギー(電離作用)はありません。国際的な安全基準をはるかに下回る微弱な電波であり、体に害を及ぼさないことが世界中の研究で実証されています。
――いわゆるデマを広める人たちについてはどう思いますか?
あやか:正直、同じ発信者として考えると、そうしたデマ系のアカウントのほうが自分より影響力が強かったりして悔しい気持ちになります(苦笑)。
量子力学で人生が好転するという参加費100万円のセミナーを開いている方もいますし、「量子で加工した水を飲めば健康になる」「量子力学にもとづいた高級ドライヤーで髪をしなやかにする」といったトンデモ商品やサービスがあふれていたり。物理学という私の“推し”を都合よくけがされているようで、やるせない気持ちになります……。
――理系の知識があまりなくても、エセ科学を見分けるコツはありますか?
あやか:まず、科学の用語が出てくるのに「具体的な数字やデータ」が出てこない内容には注意しましょう。そして、抽象的な話が多く具体的なメカニズムが説明されていないことですね。「これさえ食べれば」「絶対にやせる」など、「〜さえ」「絶対〜」と断定している表現も要注意です。
科学では、どんな現象にも「条件」や「前提」が不可欠です。それが言及されてなくてとにかくメリットしかないものは怪しいです。
よく、車に例えるんですが「どんな故障も直るガソリン」はありませんよね。それと同じで、「これを使うだけで人の健康や人生が劇的に好転する」というような都合のいい科学的現象はありえないと言っていいです。
小学校などで習う理科が「身を守る術」に
――「エセ科学」が広まる背景には、何があると思いますか?あやか:SNSによって、伝言ゲームになってしまっているのは大きいと思います。1人が発信した情報を誰かが聞きかじり、また、別の人が発信して……と繰り返すうちに、尾ひれが付いて話が飛躍していくので、どこかで訂正しようにも難しい状況が延々と続いている気はします。あとは、教育の課題も感じています。
――そもそもの教育が、ということですね。
あやか:はい。実は学校の理科教育のレベル自体は高くて、エセ科学の矛盾に気づくための知識は、義務教育のなかでみんなすでに習っているんです。例えば「水素水」の例で言えば、中学校で「水素は水に溶けにくい」という性質をちゃんと習います。知識としてはみんな持っているはずなのに、いざ目の前に怪しい商品が現れたときに、その知識を使って「あれ、おかしいぞ?」と結びつかない人もいる。ここに教育の課題を感じています。
理科教育が、自分の日常と切り離された「他人事の学問」として捉えられているケースが多いです。相談してくださる方に仕組みを説明すると、「あ、学校で習ったアレのことだったんですね!」とハッとされる方がたくさんいます。
知識はあるのに、それを日常の危険から身を守るために応用できるということに、みんな気づけていないんです。理科という学問をいかに「自分事」として捉えてもらえるか、そこを変えていく必要があると思っています。
――小学校や中学校で習う「理科」が「エセ科学」から身を守る術になるんですね。
あやか:科学の知識のほかに、「人は誰でも間違える」という前提を持っておくことも大切です。現代では「何を言うか」よりも「誰が言うか」が重視される風潮もありますが、「あの人が言うから正しい」と判断するのは危ういです。
私も「エセ科学」への不安から相談してくださる方に「物理については自信がありますが、医療的な内容であれば、お医者さんにも確認してください」と、返すときがあります。判断を誰かに委ねるのではなく、自分でも考える。その姿勢がもっとも大切ではないかと思います。
【かがみあやか】物理学系クリエイター。Instagramやnoteで身近な物理学の知識や科学リテラシーを高める考え方の発信をしている。物理学専攻、理学修士、3児の母。季刊誌『プレジデントFamily』で「家庭の科学」連載中。
<取材・文/カネコシュウヘイ 撮影/林紘輝>

