「目の手術は怖い」と感じ、白内障の治療をためらう人もいるのではないでしょうか。白内障と硝子体出血の手術を同時に受けたゲームプレゼンターの高橋名人さんは、手術について「まぶしいだけで、気づいたら終わっていた」と振り返ります。一方、術後には眼内レンズに合わせて眼鏡を使い分けるなど、見え方や生活にも変化がありました。本記事では、手術中の見え方や痛み、術後の経過、眼内レンズの選び方に加え、高橋名人さんが体験を通じて感じた「体の変化を放置せず、早めに医療機関を受診する大切さ」について、日本眼科学会認定眼科専門医の坂西良仁先生の解説とともにお伝えします。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2026年6月取材。
高橋名人さん(ゲームプレゼンター)
コントローラーのボタンを1秒間に16回たたく「16連射」で一世を風靡した、元ハドソンのファミコン名人。抜群のゲームプレイ技術と明るいキャラクターで、1980年代のファミコンブームを牽引した。「ゲームは1日1時間」というフレーズでも広く知られ、子どもたちのカリスマ的存在として活躍。現在も、ゲーム文化の伝道師としてイベントやメディアなどで幅広く活動を続けている。
坂西 良仁 医師(日本眼科学会認定眼科専門医)
1965年に祖母が開院した眼科医院を2024年5月に継承し3代目院長に就任。院長就任前は、多数の硝子体手術を手掛ける順天堂大学医学部附属浦安病院にて、教育・研究・臨床に尽力。同病院の眼科手術部長として、主に網膜硝子体疾患の難症例に数多く向き合い、高度な医療技術の研鑽を重ねてきた。長年培った専門性と知見を生かし、現在も大学病院での医療や教育に携わりながら地域の方々に寄り添った眼科医療を提供している。
「メスが入ってくるかと思ったらまぶしいだけだった」白内障・硝子体出血の手術を振り返って
坂西先生
高橋さんは実際に手術を受けてみて、いかがでしたか。術前にお持ちだったイメージと、実際の手術との違いについて教えてください。
高橋名人さん
知人に「手術が始まると、メスがグッと入ってくるのがわかるよ」と言って冗談で驚かせてくる人がいました。なので手術台に寝ながら、これからメスが入ってくるんだと思っていました。ところが、手術室の照明が本当にまぶしく何も見えない状態で、「あ、先生なんかやってるな」という感じしかなく、まぶしいまま気がついたら終わっていました。実際には恐怖心を抱く必要はまったくありませんでした。
坂西先生
白内障手術は、目の中でレンズの役割を果たしている水晶体の濁った中身を、超音波で細かく砕いて吸引します。その後、残した薄い膜の中に人工の眼内レンズを挿入します。いわば、濁ったレンズを透明な人工レンズに置き換える手術です。また、多くの場合、目薬の麻酔だけで痛みのコントロールは十分できます。手術中の見え方もおっしゃる通り光がまぶしい程度です。手術自体は5〜15分程度で、3割負担で概ね5万円前後で行うことができます。手術後の経過はいかがでしたか?
高橋名人さん
術後3、4日程度は、すりガラスを通したような見え方でした。その後徐々に見え方がクリアになってきて、視力が安定したのは約1カ月後でした。痛かった記憶があるのは縫合糸の抜糸です。抜糸するタイプと溶ける糸の2種類があるようです。私の場合は糸の端がまぶたに触れて違和感が続きましたが、治療全体を通して、痛みに関する心配は必要ないと実感しました。硝子体出血の治療方法についても改めて教えていただけますか?
坂西先生
硝子体出血に対する手術は硝子体手術と言い、白目に0.4〜0.5mmほどの小さな穴を3〜4カ所開けて機械を入れ、目の中の出血を吸い取る手術です。出血を除去することで、なぜ出血したかの原因も確認できます。同時に出血の原因に応じてレーザー治療を行ったり、網膜剥離があれば目の中にガスを入れて網膜を壁に貼り付ける治療を行ったりすることもあります。最近は機械の進化により縫合が不要な方法も普及しており、20〜30分程度で終わることも多くなっています。
高橋名人さん
そうなのですね。私の場合、手術前に抗菌薬の目薬が始まり、手術翌日からも3種類の目薬を1日4回。それが1週間程で1日3回になり、またその後1日2回になるといった形で、1カ月半ほど目薬をさす生活が続きました。実際に、目の治療後に注意すべきことはどのようなことがありますか?
坂西先生
最も注意すべきことは感染症の予防です。感染が起きると失明につながるリスクがあるため、目をこすらないこと、目を濡らさないことを徹底するように指導します。少なくとも数日~1週間は注意が必要です。また術後の目薬は施設や目の状態にもよりますが複数種類を1〜3カ月ほど続けていただくことになります。
「眼鏡が3本必要になった」単焦点レンズを選んだ理由と術後に変わった日常生活
高橋名人さん
手術を受けるにあたって、迷ったのが眼内レンズの選択でした。多焦点も候補に挙がりましたが、「夜に運転すると対向車のヘッドライトがフレアになって見えづらくなるかもしれない」と言われ、夜間運転の安全を考えて、単焦点で左目と同じくらいの視力に合わせるレンズを選ぶことにしました。眼内レンズの種類について改めて教えてください。
坂西先生
眼内レンズは大きく分けると、単焦点と多焦点があります。単焦点はある1点にピントが合うレンズ、多焦点は複数の距離でピントが合うレンズです。ただし多焦点レンズはその種類にもよりますがコントラストが若干下がること、夜間の光に対するまぶしさが出やすいという特徴があります。また、硝子体手術など他の眼疾患がある場合には多焦点レンズの恩恵が十分に受けられない可能性があるため、硝子体手術と同時の場合には基本的に単焦点レンズをお勧めしています。日常生活の変化についてはいかがですか?
高橋名人さん
単焦点だと距離が変わるとピントが合わないので、今は眼鏡を3本使い分けています。中近、遠近、老眼鏡の3種類です。眼鏡のフレームをTPOで変えていたので全部レンズ交換が必要になり、眼鏡の出費がかさみました。時々ゲームのモニターを見ているとまぶしくなるときもあります。見え方以外にも違いはあるのでしょうか?
坂西先生
費用面でも大きな差があります。単焦点の場合は保険適用で3割負担の場合片眼につき5万円程度ですが、多焦点レンズは選定療養(保険は利かないが保険診療との併用が認められている治療)や自費診療となり両眼で80〜90万円あるいはそれ以上になるケースもあります。レンズの選び方は夜間の運転頻度、手元の作業の多さ、費用などを踏まえ、その人のライフスタイルに合わせて決めることが大切です。手術を経て、改めて感じられたことはありますか?
高橋名人さん
会社の健康診断だけでは不十分だということを実感しました。心臓の手術をした際も、今回の目の件も、健康診断では特に大きな病気や異常を指摘されていませんでした。しかし、目に違和感があって受診をしたのがきっかけで、白内障が見つかり、硝子体出血をきっかけに同じタイミングで治療することができました。白内障手術を怖がっている人へは「全然大したことなかったよ」と伝えたいです。そして何より50歳を過ぎたら血管の検査と眼科の検診は必ず受けてほしいと思います。
坂西先生
白内障のほかにも緑内障などは症状が出てからでは末期の場合も多く、定期的な検診が非常に重要です。50歳を超えたら、症状がなくても健診や眼科でのチェックを受けていただくことをお勧めします。また、日常生活でできる目のケアとしては、紫外線対策が有効です。外出時にサングラスをかけることで、白内障だけでなくその他の目の病気予防にもつながります。また近くのものを長時間見続けることは目の負担になりますので、20〜30分に1回、20フィート(約6m)先を20秒ほど見るという「20-20-20ルール」も参考にしていただければと思います。
高橋名人さん
そのようなルールがあるのですね。覚えておきたいと思います。私もゲームをする人へのお願いとして、コントローラーをずっと握り続けるのは手に良くないので、「定期的に手、指を動かして」と訴えています。年を取ると体の至る所にさまざまな症状が出てくるので、自分の体の変化を気に掛け、何かおかしいと思ったら医療機関でチェックすることが大事だと実感しています。

