●焦点は「危険を予見できたか」
刑事責任の判断では、幹部が事故につながる危険をどこまで予見できたかが重要になります。
刑法上の過失とは、結果を予見できたにもかかわらず、それを回避するために必要な注意義務を怠ったことをいいます。
この点について、「危険があるという漠然とした認識で足りる」とする考え方もありますが、判例・通説では、事故の発生につながる本質的な部分を具体的に予見できることが必要とされています。
ただし、過去の裁判例では、現実の因果経過を逐一予見することまでの必要はなく、ある程度、抽象化された因果経過を予見することがあれば十分とされています(東京高裁平成27年10月30日判決など)。
つまり、通常求められる注意を払っていれば重大な事故の発生を予見し、それを回避する行動をとることが期待できたにもかかわらず、その注意を怠った場合には、過失が認められる可能性があります。
●爆発そのものではなく「重大事故」を予見できたか
今回のケースでは、大地震の直後であり、建物の損傷による倒壊やLPガス漏れ、漏電や厨房設備による火災など、さまざまな二次災害が想定される状況でした。
そのため、実際に発生したLPガス漏れによるガス爆発そのものを具体的に予見できなかったとしても、火災や爆発を含む重大事故が発生する危険については、予見可能性が認められるかもしれません。
さらに、一部メディアでは、地震直後に「ガスのような異臭がしていた」との証言も報じられています。仮に幹部がその事実を認識していた、あるいは認識し得たと認められれば、危険を予見できたことを裏付ける事情として評価されます。
現時点では、ガス爆発の原因や発生のメカニズムなどは明らかになっていません。今後、捜査によって事故原因が解明されれば、幹部個人に予見可能性が認められるかについても、より具体的な判断が可能になるでしょう。
【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(2等陸佐、中佐相当官)の資格も有する。現在、早稲田大学法学研究科博士後期課程在学中(刑事法専攻)。朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://aki-law.com/

