蒼井優の主演で話題のドラマ『Tシャツが乾くまで』(TBS系)。スピッツによる主題歌「見知らぬ糸」が素晴らしい彩りを加えています。ドラマの“独特の匂い”を盛り上げるスピッツの主題歌
バス事故でそれぞれの配偶者が行方不明になった男女。第三金曜日、Tシャツ、などのキーワードに隠された愛と秘密をめぐるストーリーに、さまざまな考察が繰り広げられています。ラブストーリーでもあり、ミステリーでもあり、それらを包み込むヒューマンドラマの雰囲気もある本作には、よい意味でつかみどころのない不思議なムードが漂っています。
具体的にあらすじを説明するのは難しいけど、しかし語らずにはいられない独特の匂いがあるからです。
そして、この匂いを盛り上げるのが、スピッツの主題歌「見知らぬ糸」なのです。何よりも、サウンドがドラマの世界観にハマっています。
イントロで三輪テツヤならではのあのギターアルペジオが流れた瞬間に、トーンが定まる。しかし、そのフレーズはいつものスピッツよりも少しウェットでダークです。
ギターポップの乾いた明るさよりも、往年の歌謡曲の持つ陰のテイストが濃く、これはスピッツの新機軸と言うべき重心の低さだと言えるでしょう。
草野マサムネによるメロディにも、陰というか泥臭さのような粘りが加わっています。かつてのスピッツが童話のようなファンタジーを思わせるとしたら、「見知らぬ糸」ではそこに民話の生々しさが混ざったイメージです。
まず、このサウンド面での微妙な変化が得体の知れないドラマの奥深さを際立たせています。「いったいどうなるんだろう?」という、怖いもの見たさの興味を掻き立てるのです。
ドラマを説明しない歌詞が、なぜこれほど物語にハマるのか
そして、「見知らぬ糸」は事細かに歌詞で説明をしません。ドラマのメッセージだとか、そこから引き出せる教訓めいた話だとかは、一切歌詞の言葉にはしていない。ここが、新しいのです。
たとえば、最近では『虎に翼』の「さよーならまたいつか!」(米津玄師)が、ドラマに寄り添う主題歌として好評を博しました。これは、ひとえに米津の歌詞によるところが大きいものでした。
ドラマに対する米津の読解力と解像度の高さが、読み物としてのドラマを視聴者に分かりやすく橋渡しする役割を担っていました。
その点で言うと、『Tシャツが乾くまで』と「見知らぬ糸」の関係性は、わかりづらい。草野マサムネの歌詞は抽象的であり、また語句のチョイスも象徴的だからです。草野は、ドラマを噛み砕いて説明しようとはしていません。
けれども、ひとつひとつの単語が醸す色彩や匂いが、ことごとくドラマの世界観にフィットしている。といったフレーズや語尾の処理が映し出すニュアンス。こうした細部に至るまでの雰囲気を、ドラマと音楽で共有できているのです。

