本書は、お二人の経験に基づいたお話が、イゴカオリさんの漫画によってビジュアルでわかりやすく描かれているのも大きな特徴です。
性にまつわるトラブルは、決して一部の人だけの問題ではなく、10代の誰もが当事者になり得る——。そう語る二人に、子どもたちを取り巻く環境の変化と、子どもを加害者にも被害者にもしないために家庭でできることについて話を聞きました。


「ごく普通の子」が性加害者になっている
――斉藤さんはソーシャルワーカーとして、また加害者臨床家として活動されるなかで、性加害を起こした子どもたちと向き合う機会が多いと思います。斉藤さんのもとには、どのような子どもたちが来るのでしょうか?斉藤章佳さん(以下、斉藤):埼玉県川口市にある西川口榎本クリニックで、10代の性加害少年たちのプログラムを始めてから、これまでにおよそ300例を超えるケースを見てきました。性加害という問題自体は、性別を問わずに起こりうるものです。ただ、私がこれまで見てきたケースが全員少年であったことから、今回は少年たちのケースをもとにお話ししたいと思います。
彼らの平均年齢は16歳代で、高校生がボリュームゾーン。特徴的なのは、家庭環境に一見大きな問題が見えない子や学校への適応が悪くない子が多いこと。中には偏差値の高い進学校に通っている子や、優等生と呼ばれるタイプの子もいます。彼らには万引きや薬物の自己使用、自転車窃盗、住居不法侵入といった、いわゆる典型的な非行歴もほとんどありません。見た目では、誰も気づかないような「普通の子」たちばかりです。私自身、最初はそのギャップに驚きました。性加害を行う少年たちは決して特別な子ではないということを伝えたいと思ったのも、この本を書いた理由の一つです。
――少年たちが行う性加害はどのような種類が多いのでしょうか。
斉藤:クリニックに来る少年たちの性加害で最も多いのは盗撮です。次いで、のぞき、痴漢などが続きます。ただし、彼らはある日突然このような加害行為をするわけではありません。話を聞いていくと、小学生や中学生のころから、同意なく他人のプライベートゾーンに触れたり、着替えをのぞいたり、露出するといった行動がすでに始まっていたケースが多いのが特徴です。ところが、誰にも注意されなかった。「男の子はそれくらい元気で当たり前」と大人側になかったことにされたり、被害者側が被害を訴えられず、事件が表面化しなかったことで、見過ごされてきた。その「負の成功体験」が積み重なって、誤った学習が修正されないまま、より深刻な性加害へとつながったパターンです。
――櫻井さんは助産師活動の一環として、学校での性教育講演などを通じて、多くの子どもたちと接してこられました。教育現場で子どもたちを見ていて、どのようなことを感じていますか。
櫻井裕子(以下、櫻井):斉藤さんがおっしゃった「一度うまくいってしまうとエスカレートする」という図式は、教育現場でも同じことが起きていると感じます。子どもたちは、とくに集団になると歯止めが利かなくなることがあります。最初は緊張しながら「よくないことかも……」とやっていたことが、一度明るみにならずにすんでしまうと、だんだん感覚が麻痺してしまうようです。
さらに、スマホやSNSの普及によって、盗撮をはじめとする性加害行動はより身近に、カジュアルになっています。私の感覚では、そうした問題がまったく起きていない学校はないと言っていいほど、広く見られるようになっています。
――著書には、内輪の悪ノリがエスカレートした結果、加害行動へと発展してしまった事例が掲載されています。
斉藤:私が実際に担当したケースです。校内での盗撮を仲間内のSNSグループに投稿した少年がいました。その投稿が仲間に受け入れられ、評価されたことで、盗撮行為がエスカレートしていきました。結局、その少年は学校外で行った盗撮で逮捕されました。
子どもの加害意識を麻痺させるSNSの存在
――スマホやSNSの普及によって、子どもたちを取り巻く性加害や性被害がより身近な問題になっているように感じます。櫻井:やはり、性に関する情報の入手方法に大きな問題があると感じています。私は講演の前に学校から協力していただける場合、子どもたちへ「性に関する情報をどこで得ていますか?」というアンケートを取ってもらうのですが、記名式だと「授業」や「教科書」と答える子が多いです。ところが、無記名で自由に回答できる場だと、情報源の上位はほぼ「ネット・SNS」になります。
子どもたちが信頼しているのは、必ずしも正しい知識を発信している専門家ではありません。フォロワー数の多い人や影響力のある人の発信です。たとえ間違った避妊法や根拠のない情報であっても、発信者の知名度が高かったり、内容にインパクトがあったりすると信じてしまう。そして、「これ知ってる?」と友人同士で共有されるうちに、どんどん拡散されていきます。
――著書の中には、「童貞だと『童貞臭』がする」という話を信じて、焦る男の子のエピソードも紹介されていました。
斉藤:間違った情報であっても、「みんながそう言っている」というだけで信じてしまう傾向があります。子どもたちの話を聞いていると、「~らしいよ」という形で伝わる情報がとても多いことに気づかされます。では、その情報源はどこなのかというと、ほとんどがSNSです。しかも、その内容の出どころもあいまいで誇張されすぎたり間違っていることも少なくありません。
もちろん、誤った情報を信じてしまうこと自体も問題です。ただ、私がそれ以上に問題だと感じているのは、その間違いを修正してくれる大人や環境が、今の子どもたちの周りにほとんどないことです。

