まさかの“作戦”に迷惑男性がフリーズ
「すると彼は、ポケットから小さなのど飴を取り出すと、その男性に向かってめちゃくちゃ穏やかな声で『大丈夫っすか?』と声をかけたんですよね」
車内が一瞬シン……となりました。注目を集めていた“咳おじさん”も予想外だったのか、ムッとした表情を浮かべながら「別に風邪じゃねーし」とぶっきらぼうに返しました。しかも、その瞬間だけ咳がピタリと止まっていたそう。
すると金髪の男性は「なら良かったです」と安心したように頷きます。そして「でも、のど辛そうなので、よかったらどうぞ」と、のど飴を差し出したのです。
「その言い方が、責めるというより、本当に普通に気遣っている感じで……それが逆に効いたんでしょうね。“嫌がらせしてやろう”って空気が、一気に浮いちゃった感じがしました」
男性は飴を受け取ることもできず、かといって怒鳴ることもできず、そのままフリーズしたように視線をそらしました。
すると金髪の男性は、さらに追い詰めることもありません。困ったように少し笑いながら「自分、昔めちゃくちゃ咳止まんなくなったことあるんです。電車は特にキツいですよね」と話しかけたそう。
まさかの共感モードでした。
「成敗! って感じじゃなくて、ちゃんと相手の逃げ道を残しながら止めた感が、すごく大人だなって思いましたね」
先ほどまで車内を支配していた重苦しい空気が少しずつ和らいでいき、嫌がらせを続けていた男性は完全に勢いを失っていました。
結局その男性はその後、全く咳をしなくなり、次の駅でそそくさと降りていったそう。
最後に広がった優しい空気
「するとドアが閉まったあと、近くにいた女子高生が小さな声で『見た目ヤンキーなのに優しかったね』とポツリと言うと、それが金髪の男性に聞こえてしまったらしく、少し気まずそうに笑いながら『ヤンキーじゃないし……』と言っていて。つい『可愛い〜!』と思ってしまいました」車内には笑顔が広がり、先ほどまでの緊張感はすっかり消えていたそう。
「迷惑行為を力でねじ伏せるのではなく、あんな穏やかな方法で解決に持っていくなんて……。本当に人を見た目で判断したらいけませんね。反省してしまいました」と微笑む麻美さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop

