「サギングアイ(サギングアイ症候群)」は、加齢に伴って眼球を支える組織が緩み、ものが二重に見えたり、軽度の斜視(しゃし)が生じたりする病気です。今回は、サギングアイの原因や進行の特徴、予防の考え方、受診の目安について、新馬場眼科院長の芳賀先生に聞きました。
※2026年6月取材。

監修医師:
芳賀 剛(新馬場眼科)
山梨医科大学(現・山梨大学)医学部卒業。山梨医科大学医学部附属病院(現・山梨大学医学部附属病院)、加納岩総合病院(眼科医長)などに勤務した後、おおたけ眼科古淵医院院長を経て、2016年6月に新馬場眼科を開院。現在は院長を務める。
サギングアイとは?
編集部
サギングアイとは、どのような状態なのでしょうか?
芳賀先生
サギングアイとは、加齢により眼球を支える組織が緩み、眼球を動かす筋肉の位置関係が少しずれることで生じる、成人の斜視や複視(ふくし)のことをいいます。高齢者に多く、遠くを見るとぼやけたり、二重に見えたりして気付くことがあります。
編集部
具体的に、どのような症状が出やすいのでしょうか?
芳賀先生
代表的なのは複視、つまりものが二重に見える症状です。ずれが小さいと、二重というよりもぼやけて見えると感じる人もいます。特に、遠くを見ると横にずれて見えるタイプや、上下に少しずれて見えるタイプが多いとされています。日常では、車の運転やテレビを見るとき、外を歩くときなどに違和感を覚えることがあります。ただし、近くを見ると症状が軽いこともあり、最初は「疲れ目かな」と見過ごされやすい点が特徴です。また、「両目で見るとぼやけが強くなるものの、片目で見るとすっきりする」という場合も多いですね。
編集部
眼瞼下垂(がんけんかすい)や見た目の変化も関係するのでしょうか?
芳賀先生
はい、関係することがあります。サギングアイの患者さんは、まぶたのたるみ、くぼみ目、袋状のまぶた、眼瞼下垂など、加齢に伴う目の周囲の変化を伴うことがあります。これは、眼球を支える結合組織だけでなく、まぶた周囲の支持組織も加齢で緩むためです。
編集部
サギングアイは、よくある病気なのでしょうか?
芳賀先生
近年は、加齢に伴う成人斜視の重要な原因として注目されています。高齢化が進む中で今後さらに見かける機会が増えると考えられますが、病名としての認知は一般にはそれほど広まっておらず、「原因不明の複視」として見逃されることも少なくありません。
編集部
病気が見逃されることもあるのですね。
芳賀先生
サギングアイは、まだ眼科医の間でも十分に認知されているとはいえず、「年のせいでしょう」と片づけられてしまうことが今もあります。さらに、白内障手術をきっかけに、それまで目立たなかった複視がはっきりする人も多く、「術後、二重に見えるようになった」と悩む患者さんも少なくありません。診断が難しい病態であるため、「ものが二重に見えるようになったものの、原因が分からない」という場合は、サギングアイについて理解の深い眼科医に相談することをおすすめします。
原因は? どうやって進行する?
編集部
サギングアイの原因は何ですか?
芳賀先生
主な原因は、加齢による目の周りにある結合組織の緩みです。眼球の周りには、リング状に取り囲む、コラーゲンでできた組織があります。これを眼窩(がんか)プーリーといい、眼球を動かす筋肉を安定させ、眼球をスムーズに動かす働きを担っています。眼窩プーリーは加齢の影響を受けやすく、緩んだり断裂したりすることで、眼球が下の方へ垂れ下がってしまいます。その結果、遠見(えんけん)での内斜視や小角度の上下斜視が生じ、複視につながると考えられています。
編集部
どのように進行していくのでしょうか?
芳賀先生
多くは急激に進むというよりも、年齢とともに少しずつ症状が目立ってきます。最初は遠くを見ると少し見づらい、夕方に二重に見えるといった軽い違和感から始まり、進行すると日中でも複視を自覚するようになります。特に、運転や外出時に不便を感じやすくなります。進行の仕方には個人差がありますが、加齢性変化が背景にあるため、自然に完全に元へ戻ることは期待しにくいとされています。
編集部
「二重に見える」というと、脳や神経の病気を疑う人も多そうです。
芳賀先生
サギングアイは、脳や神経の麻痺(まひ)によって起こるのではなく、目の周りの支持組織が加齢によって緩み、眼球の位置関係に物理的なずれが生じることで起こります。原因の仕組みが異なるため、神経の病気とは区別して考える必要があります。神経の病気の場合、急なまぶたの下がりや強い眼球運動障害、しびれ、ろれつが回らないといった症状を伴うことが多く、これらが見分ける手がかりになります。
ただし、「二重に見える」という症状だけでは神経の病気と見分けがつきにくく、初期には詳しい検査が必要なこともあります。見え方の異常や体調の変化など心配なことがあれば、眼科や脳神経内科に早めに相談してください。
編集部
放置するとどうなりますか?
芳賀先生
サギングアイは、命に関わる病気ではありませんが、複視が続くことで日常生活の不便が大きくなります。特に、運転、階段の昇降、外出時の安全性に影響しやすく、転倒リスクや活動性の低下につながることがあります。また、「見えにくいから外出しない」という流れになると、生活の質そのものが下がりやすくなります。症状が軽くても、続く場合は放置せず医師に相談してください。

