インタビュー[前編]・[後編]で、「家族は社会の原点」と教えてくれた柴田愛子さん。
編集部はどうしても、「愛子さんの原点」について、聞きたくなってしまいました。
そんなわけで、「家族」をテーマに追加インタビューを実施。愛子さんの土台を育んだ家族の情景を、ご本人の語りそのままにお届けします。
「学校に呼び出された母は、私に”気にするな”と言った」60年を経て今思うこと
34,823 View明るく楽しく痛快に子どもの世界を語る保育者・柴田愛子さん。悩めるお母さんたちを「大丈夫よ!」とあたたかく包み込み、子育て世代から圧倒的な支持を得ています。これは、そんな愛子さんの根っこを育んだ「家族」の物語。
子どもの頃は、「自分」を停止していた
私は5人兄弟の5番目だったの。
だから、小さいときは観察力はあったけど、活発な子ではなかったわね。
庭に池と砂場があって、午後になると近所の子どもがみんな集まって来る家だったけど、近所に女の子の友だちがいなかったから、お人形遊びとかはあまりしなかったかな。
その代わりに、いつも3歳上の兄の後ろにくっついて遊んでいて、めんこしたり、探検したり。
庭の草を摘んで、ひとりでおままごともした。幼稚園や保育園は行かなかったの。
それで初めて学校に行ったから、どうしていいかわからなくて、「しばたあいこ」って書いてあるところにただ座ってて。
消しゴムがころころ落ちちゃっただけで困って泣くような、そんな子だったのよ。
もうね、その頃は自分を「停止」してた。
小学校6年の間に自分から手を挙げたことって、2〜3回くらいしかなかったんじゃないかな。
中学に行ってもあまり変わらなくて、今も同窓会で私のこと知ってるのは3〜4人くらいよ。
私は観察してたから、みんなのことものすごく覚えてるけどね。
「愛子はピアノがあるから、大丈夫よ」
でもね、そんな私を支えてくれたのは、親だと思う。
割と放っておかれたんだけど、母がひとつだけ言ってくれていたのは、「人間好きなことひとつあれば生きていけるから」ってこと。
それしか言わなかった。
そのとき4年生で、私はピアノが好きだったから「愛子はピアノがあるから大丈夫よ」って。
それは、職業にするってことじゃないのよね。
当時はそれがどういう意味か全然わからなかったんだけど、そのときに漠然と、「あ、大丈夫なんだ」って思ったのよね。
それからよく覚えているのは、親が学校に呼び出されたときのこと。
私は忘れ物は多いし、遅刻もするし、先生に呼ばれたのよね。
でも帰ってきた母に「何だった?」って聞いたら「たいしたことじゃないから気にしなくていい」って言われたの。
すごく、守られてたと思う。
いろんな場面で、家族に守られていたと思うの。それがあったから、自分らしく生きてこられた。
私、今までの人生で自分を否定したことないし、やりたいことは実現できる、好きなことがあれば生きていけるって思ってる。
だから、こうやって外で発言できるようにもなったのよね。
自分がまっすぐに生きて来られたのは、それは親も自分を譲らないで生きてきたからだと思う。
「確かさ」と「安心感」を土台に
それから私の家の中には、「しつけ」とか「常識」とかいう言葉は一切なかった。
父なんて、自分のこと「ポチ」って言ってたのよ(笑)。
だから私も、お父さんが一番偉いとも思ってなくて。
30代でOLやってたときにね、私、お茶を淹れて、当たり前のようにのどが渇いている人から配ったの。
そうしたら部長が最後になっちゃって、「こういうのは“偉いもん順”に配るんですよ」って言われて。
そのとき初めて、「世の中には“偉いもん順”ってものがあるんだ!」って知って驚いたの(笑)。
でも、私もそんなに人に迷惑かけていないと思うしね、そんなものは後で間に合うのよ。
親から子へ伝わるメッセージなんて、そんなに多くないのかもしれない。
私が親からもらったのは、「自分を守られた」っていう「確かさ」と「安心感」。
しつけよりも何よりも、それさえ伝えられれば、あとは子育てに責任なんて持たなくていいと思う。
そこから先は、その人がその人らしく生きていく以外、しょうがないんだから。
柴田愛子:
りんごの木代表。保育者。1948年東京生まれ。
私立幼稚園に5年勤務したが、多様な教育方法に混乱して退職。一度はOLを体験してみたが、子どもの魅力が忘れられず、私立幼稚園に5年勤務。1982年、仲間3人で、トータルな子どもの仕事をめざし、横浜市都筑区に「りんごの木」を創設した。
35年以上に渡り、「子どもの心により添う」を基本姿勢とした保育を展開。子どもたちが生み出すさまざまなドラマを大人に伝えることで、子どもと大人の気持ちのいい関係づくりをしたいと願い、子育てや保育の本や絵本の執筆、講演など幅広く活動中。
(執筆:池田美砂子 / 写真:中野亜沙美 / 企画編集:三輪ひかり)
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