桜葉幼稚園の先生にもらったチケットで小学校のバザーに行ってみた土曜の午前中。
そこでも圭吾親子に遭遇し、中古おもちゃのクジを前にして奏太と圭吾がもめて…。
まさかのお互いが欲しいと言っていたものが当たっちゃったのよね。
奏太は圭吾がほしい剣。剣に興味なし。
圭吾は奏太がほしい電車。電車に興味なし。
ここは素直に交換すればすべては丸く収まるのだけど、奏太が意地を張ってそれをしようとしない。
なんでそんなに圭吾に対してムキになるのか…。わからん。
新しい出会いは、子どもを成長させるのかもしれない。 / 25話 sideキリコ
35,425 View岐阜にある満の実家で過ごすことになったキリコと奏太。号泣して以来、幼稚園のプレには行きたくないと言う奏太は、近くの公園で出会った男の子、圭吾ともなかなか仲良くなれない。そんな時、小学校のバザーで再び圭吾に出会う――。
第25話 side キリコ
クジ担当のお母さんが圭吾に、Nゲージの山手線が手渡す。
お母さん「はい、どうぞ」
圭吾 「…ありがとう」
私は奏太をちらりと見る。
うー、ガン見。山手線に穴が開くほど見てるじゃないの。
圭吾は山手線を握り締め、困った顔をしている。
圭吾 「ママー、こんなのいらないー」
圭吾ママ「じゃあ、奏太くんにプレゼントしたら? 奏太くん、それが良かったんだって」
圭吾 「うーん…いいよ!」
わぁ、プレゼントしてくれるなんて。
一方のうちのボウズは…。
キリコ 「ありがとうね、圭吾くん。じゃあさ、奏ちゃんは圭吾くんに剣をプレゼントしたら?」
奏太 「いやだ!」
うぉいっ!
ヤキモキしている私をしり目に圭吾が奏太に山手線を差し出した。
圭吾 「そーたくん、はい、どうぞ」
奏太は険しい表情のまま、圭吾から山手線を受け取る。
あんなにイヤがってたくせに、もらうんかい。
キリコ 「奏ちゃん、ありがとうは?」
奏太 「……」
キリコ 「奏ちゃん!」
思わず大きな声を出すと、圭吾のママが私に微笑む。
圭吾ママ「あ、いいですよ。ケイ、次はおもちゃ釣りのところに行こうか」
圭吾 「うん!」
圭吾ママ「じゃあまたね、奏ちゃん」
圭吾 「ばいばーい」
キリコ 「バイバーイ…」
なんだろう。あの気持ちの良い親子は…。
遠ざかっていく圭吾親子を見つめ鼻からふーっと息を吐き、奏太に視線を移す。
両手に電車と剣を持っているのに、ぜんぜん嬉しそうな顔をしていないじゃないの。
そんな険しい顔をして。
キリコ 「ねぇ、奏ちゃん。圭吾くんはその剣が欲しかったんだって」
奏太 「……」
キリコ 「圭吾くんさ、奏ちゃんの欲しかった電車をくれたね。奏太さ、その剣、本当にほしいの?」
何にも答えない。
こういう時、どうしてあげるのがベストなんだろう?
私がベテランママなら方法が分かるのかもしれないけど。
でも無理やり剣をとりあげて圭吾に渡したところで余計に圭吾を「イヤ」って言いそうだし。
こういうのは本人の気持ちを待つしかないのかな。
キリコ 「………次はどうしようか。…お洋服とか見てみる?」
ゆっくりと歩き出し、振り返る。
奏太は下を向いたまま動こうとしない。
私は数歩戻って、奏太の横にしゃがみ込む。
キリコ 「どうしたの?」
奏太 「………」
キリコ 「黙ってたらわからないよ? 帰る?」
奏太 「……剣いらない」
キリコ 「じゃあさ…」
私が言いかけた時、奏太がその場にぽいっと剣を投げ捨てた。
キリコ 「ちょっと、奏ちゃん!」
奏太 「……」
キリコ 「そんな風に捨てるなら、圭吾くんにどうぞしたらいいじゃん? ママも一緒に言ってあげるから」
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