「 KIGINU」プロデューサー 西内ひろさんに聞く、 「どんな失敗も自分らしいキャリアに繋げる」ために必要なこと

2014年にミス・ユニバース・ジャパン準グランプリを獲得後、フィリピン観光大使に就任し、フィリピンの魅力を発信していた西内ひろさん。ですが2019年、それまで仕事の約8割を占めていた海外での活動が、コロナ禍をきっかけになくなってしまうという危機的状況に。そんなとき、たまたま仕事で出会ったローシルク(生絹)の心地よさに魅了され、リラックスウェアのブランドを立ち上げました。ローシルクを使ったブランド「KIGINU(キギヌ)」のプロデューサーとして活躍する西内ひろさんに、製品に込めた環境への思いや自分の世界を広げるための考え方、アドバイスを聞きました。

今までのシルクの概念を変えるローシルクを製品化

――シルクといえば光沢があって華やかなイメージですが、「KIGINU」は柔らかくナチュラルで驚きました。ローシルク とはどんなものなのですか?

 「KIGINU」というブランド名は、生絹(きぎぬ)から来ています。通常のシルクは、この生絹からセリシンなどを落とす精錬をした生糸を使い、光沢のある滑らかさを出します。一方で、生絹は精錬前のありのままの状態の糸。「KIGINU」はそんな自然な糸でつくり、まとった人が自然体でいられるようなアイテムをという思いを込めています。

「KIGINU」で使っているローシルクは、穴の空いてしまった繭(まゆ)から採取された糸や短くなってしまった生絹など、従来では捨てられていたようなシルクの糸を再度紡いで1本の糸にしています。糸の大きさが均一ではないからこそ生まれるポコポコとした自然な風合い、タンパク質がついたままだからこその柔らかさが持ち味です。洗うと固くなりますが、また皮脂を吸着して柔らかくなり、保湿性もあります。

 出典:KIGINU

――とてもサステナブルな製品なんですね。もともとは監修を手がけたことから始まったそうですが、自然志向の西内さんにぴったりですね。 

コロナでフィリピンはじめ海外の仕事はすべてストップ。そんな折、ヘアメイクの方から、アパレル生産会社が監修者を探しているのでやってみないかと声をかけられたのがきっかけでした。もともと、私自身も宗像国際環境会議でアンバサダーを務めるなど、サステイナビリティに関する仕事に携わっていたということもあり、ファストファッションなどの環境によくないアパレル産業に疑問を持っていたんです。その点、環境にやさしいローシルク はとても魅力に感じました。

「KIGINU」では、着色をしないオフホワイトの商品が多いのですが、ホワイトはどうしても、何年か経つと汚してしまったり、黄ばんでしまったりすることがあります。そこで、「KIGINU」で購入いただいた服を天然100%の草木染めで染め直しさせていただくサービスもしています。染めるときは、野菜や果物の皮、種などから抽出した染料を使うので、水を汚すことなく環境にも優しいんです。

また、洋服についているタグも、すぐに捨てられてしまうものであれば要らないと思い、「KIGINU」ではリサイクルペーパーにシード(種)を混ぜ込んでつくっています。土に還すことで芽吹いてくるのですが、何が咲くかはそのときのお楽しみにしていただければと思っています。

KIGINUではタグデニング(TAGでGARDENING)という造語を発信。 出典:KIGINU

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芸能界からライフスタイルプロデューサーへ

―それまでの芸能界のお仕事とはまったく違う分野での取り組みですが、どうやってプロデュース業に踏み込んでいけたのですか?

芸能界でのお芝居やモデルの仕事でも、見た人から反響が返ってくることに幸せを感じていました。なので、自分がつくったものを人に喜んでもらえるという点では、一緒なんです。ミス・ユニバース・ジャパンの準グランプリになった時に『準グランプリ』(宝島社)という書籍を出版したのですが、このときも事務所から来た話ではなく、旅本を出したいと宝島社さんに自分から提案していました。違う形での出版になりましたが、自分にとっては、アイデアを形にしていくというモノづくりの起点となる“思い”を実現することができました。その上で「売れるものとは?」「自分がつくりたいものとは?」という視点を加えて、プロデュースしていくのが好きなんです。

もともと旅が好きで、今までで47カ国ぐらい訪れているのですが、海外で日本にないようなものに出会うと、これとこれが結びついたら素敵なものになりそうだというアイデアが湧いてくるんです。「KIGINU」のコンセプトルームでそんな結びつきを表現できたらと思っていて、今、箱根のホテルで一部屋プロデュースをするお仕事もしています。繭に包まれた空間というコンセプトでつくっているのですが、ホテル業界の方からは「自分たちだけでは、こんな発想は生まれない」と評価していただけました。

――違う業界だからこそという視点が評価されるということですね。そんな自分の視点を生かすうえで大切にされていることはなんですか?

自分の軸をしっかりつくることだと思います。年齢を重ねると、ただキレイ、可愛いだけではなく、自分だけにしかできない価値を磨いていかないと自信を持てなくなってしまうように思います。私自身、環境を大切にするという指針は今でも自分の軸になっています。その価値観は、フィリピン観光大使をさせていただいていた2018年に、ボラカイ島が環境保全のために半年間観光客の立ち入りを禁止したのを目の当たりにしたことで形成されたものです。