
「クラブの格が一段下がってしまったような感覚」混迷するマドリーにレジェンドが私見。ブーイングへの指揮官への発言には警鐘「分断を煽るような態度は取らないように…」【現地発コラム】
フットボールが一種の儀式であるならば、スタジアムを包む熱狂は、人々を引きつけ、離さない集団的な電気のようなものだ。高揚感と愛国心、そして「私もその一員である」と感じさせてくれる一体感。私たちはその心地よい渦の中に好んで身を投じる。どこかのクラブを支持することは、どこかに帰属することと同義であり、分断が進む現代社会において、フットボールが持つコミュニティを形成する力に、我々は感謝すべきだろう。
もしスタジアムが言葉を発するなら、こう言うに違いない。「中途半端な者は去れ」と。スタジアムには、人間の最も良い面と悪い面の両方が持ち込まれる。幼少期から育まれたチームへの純粋な愛情もあれば、感情が理性を支配する狂信的な一面もある。どちらの極端な状態にあっても、人は容易に正気を失ってしまうものだ。
晩年のアルフレッド・ディ・ステファノと共にサンティアゴ・ベルナベウで試合を観ていた際、何かの議論になったことがある。私が理詰めで話をしようとすると、彼は私を制し、杖で観客席を指してこう言った。「この中のたった一人にでも、『考えてくれ』と頼んでみろ」と。その通りだ。スタジアムとは、思考する場所ではなく、感じる場所なのだ。
人は孤独である時よりも、群衆の中にいる時の方が従順になり、自分で考えるよりも誰かの後ろに付いていく方が楽だと感じる。しかし、ファンという存在は、社会の変化と共に形を変える生き物でもある。ベルナベウの観客層も、かつてのようにスタジアムの大部分が立見席だった頃や、「ウルトラス・スール」が暴力的な権力を振るっていた時代、あるいは観光客が「体験」を求めてやってくる前の時代とは、その性質を変えている。
この1か月間にクラブが経験した出来事を踏まえれば、ソシオたちが自宅でじっくりと考え抜いた末の反応を示すことは予想されていた。親愛なるアルフレッド、今のファンは家で頭で考えをまとめてから、スタジアムに駆け付けるのだ。
監督の解任と、2つのタイトル(スーペルコパ・デ・エスパーニャとコパ・デル・レイ)を立て続けに逃したことが重なるなど、そう頻繁に起きることではない。バルセロナ戦の敗戦(2-3)も痛かったが、2部アルバセーテ戦での失態(2―3)はそれ以上に堪えた。クラブの格が一段下がってしまったような感覚と、それに伴う全方位への憤り。毎年繰り返される「世界の終わり」のような光景だ。
レバンテ戦で、ファンは予想以上の表現力で声を上げた。しかも、その批判の矛先は明確に区別されていた。あっちには(ヴィニシウス)厳しく、こっちには(ベリンガム)それなりに、そして今度はこいつ(フロレンティーノ・ペレス会長)の番といった具合に。それは単なる騒音ではなく、意図を含んだメッセージだった。
試合後、アルバロアは会長を擁護するあまり、観客の反応について「どこから来ているものか分かっている」と述べた。あたかもファンが、クラブを不安定にさせようとする陰謀家や組織的な細胞に操られているかのような言い分だった。
もしそれが真実なら、アルバロアは私よりも遥かに多くのことを知っていることになる。会長に対して、不適切な横断幕が掲げられたり、法に触れるような挑発行為が投げかけられている事実は、私の目にも入っている。しかし、あの日見えたものは別物だった。自分たちこそがクラブの主であると自負する人々が、その不満を表明しようとする、広範にわたる「怒り」だった。
どれほど多くのことを知っていようとも、アルバロアには「分断」を煽るような態度は取らないよう勧めたい。私は「アイデンティティの監視役」のような存在が恐ろしい。誰が忠実で、誰が裏切り者か、誰を支持し、誰を拒絶すべきかを勝手に決める人々だ。物事はもっと単純である。これほど多くの人々の生活に深く根ざしたクラブにおいて、情熱を示す形は一つではない。数百万通りの愛し方があり、そのすべてが正しいのだ。
試合には勝った(2-0)が、その内容以上に「スタジアムの音」の方が多くの物語を語っていた。そしてチャンピオンズリーグのモナコ戦を迎え、二つの興味深いことが起きた。一つは、ソシオたちが「自分たちの意見はすでに伝え終えた」と理解したこと。もう一つは、チームが非常に良いプレーを見せたこと(〇6-1)だ。
ベルナベウの観客は分をわきまえた振る舞いを見せ、指笛(ブーイング)を鳴らす代わりに、チーム、特にヴィニシウスに対して、そのプレーに見合うだけの拍手を送った。
選手たちの戦う姿勢が変わったことで、彼らがファンのメッセージを正しく受け取ったのだと解釈するのは容易い。しかし、これでめでたしめでたし...とはいかない。この物語に、永遠に終わりが来ることはないのだから。
文●ホルヘ・バルダーノ
翻訳●下村正幸
【著者プロフィール】
ホルヘ・バルダーノ/1955年10月4日、アルゼンチンのロス・パレハス生まれ。現役時代はストライカーとして活躍し、73年にニューウェルズでプロデビューを飾ると、75年にアラベスへ移籍。79~84年までプレーしたサラゴサでの活躍が認められ、84年にはレアル・マドリーへ入団。87年に現役を引退するまでプレーし、ラ・リーガ制覇とUEFAカップ優勝を2度ずつ成し遂げた。75年にデビューを飾ったアルゼンチン代表では、2度のW杯(82年と86年)に出場し、86年のメキシコ大会では優勝に貢献。現役引退後は、テネリフェ、マドリー、バレンシアの監督を歴任。その後はマドリーのSDや副会長を務めた。現在は、『エル・パイス』紙でコラムを執筆しているほか、解説者としても人気を博している。
※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙に掲載されたバルダーノ氏のコラムを翻訳配信しています。
【記事】「記録的な移籍金となる」超絶ゴラッソの22歳日本代表が欧州超名門に電撃移籍か!公式オファーと精通記者が報道!プレミア&ブンデスのクラブとの争奪戦に
【画像】長澤まさみ、広瀬すず、今田美桜らを抑えての1位は? サカダイ選手名鑑で集計!Jリーガーが好きな女性タレントランキングTOP20を一挙紹介
