
アストン・ビラは明確に「一段階上の存在」に進化。指揮官の卓越した戦術眼。90分で勝ちに行く設計こそが勝負強さの正体だ【現地発】
アストン・ビラが好調だ。
世界最高峰プレミアリーグで、現在順位は3位。最近はエバートン(1月18日)やブレントフォード(2月1日)に敗れるなど、やや調子を落としているが、それでも首位アーセナルに勝点7差、2位マンチェスター・シティにはわずか1差の3位である。アストン・ビラの戦力値を踏まえれば、ここまでの出来には最高級の評価が与えられるだろう。
振り返れば、昨年11月上旬からは欧州リーグを含めた公式戦で11連勝を飾った。国内リーグに限定すれば、9月28日の第6節から13試合で12勝1敗という驚異的な成績を残している。この間、リーグ戦では、怒涛の8連勝を記録。秋から年末にかけて、彼らはまさしく上昇気流に乗っていた。
今年1月に入ってペースがやや落ちたが、それでも24節消化時点の成績は「14勝4分け6敗」。この数字を見ても、好調は一時的なサプライズではない。その強さは、疑いようのない本物である。
そんなアストン・ビラの強さを端的に示した試合がある。
昨年12月27日、敵地スタンフォード・ブリッジで行なわれたチェルシー戦だ。前半を終えてアストン・ビラは1点のビハインド、しかもシュート数はゼロだった。内容でも完全にチェルシーに押し込まれ、敗戦濃厚だった。
しかし59分、ウナイ・エメリ監督は迷うことなく動いた。FWオリー・ワトキンス、MFジェイドン・サンチョ、MFアマドゥ・オナナを同時投入する大胆な「3人替え」に打って出た。この一手が、試合の流れを劇的に変えた。
この交代策は、単に選手を替えたのではなく、役割と配置を替えた。布陣は4-4-2から4-3-3に変更。前半の「守り中心の戦い方」から、交代策を機に「ボールを奪った瞬間に一気にゴールまで仕掛ける」チームに様変わりしたのだ。
その結果、前線の圧力は一気に高まり、中盤には数的優位が生まれ、ビラは後半だけで9本のシュートを放った。スペースにボールを運ぶカウンターは破壊力抜群だった。
そのなかで主役となったのは、ワトキンスだ。交代からのわずか30分間で2ゴールを叩き込み、2-1の逆転勝利を収める原動力になった。試合後、そのワトキンスは指揮官のエメリをこう称えた。「ボスは戦術の天才だ」。また、解説者のジェイミー・レドナップも「プレミアリーグ史に残る交代策のインパクト」と絶賛した。この一戦は、今季のアストン・ビラを象徴する90分だった。
興味深いのは、彼らの勝ち方だ。アストン・ビラは必ずしも試合を支配し続けるチームではない。ボール支配率で下回る試合もあれば、ゴール期待値(xG)でも相手を下回る試合も少なくない。
たとえば、先述したチェルシー戦。チェルシーのゴール期待値が「2.08点」であるのに対し、アストン・ビラはわずか「1.35点」だ。ボール保持率でも38%しかなかった。また、チェルシー戦やブライトン戦(4-3で逆転勝利)のように、劣勢からの逆転勝利も目立つ。実際にアストン・ビラは、プレミアリーグで最も多く「ビハインドから勝点を奪っている」チームでもある。
基本構造は「コンパクトな守備ブロック」と「高いラインコントロール」にある。フォーメーションは4-2-3-1か4-4-2。オフサイドラインを揃え、相手を外に追い出し、奪った瞬間に縦へ速く出る。このシンプルな原則が土台となっている。
ただ、より重要なのは、エメリ監督の戦術が固定された「型」ではない点だ。試合中にうまくいかなければ、修正に修正を重ねる。チェルシー戦の3人替えが象徴するように、エメリ監督は90分を調整可能な戦術プロセスとして捉えているのだ。この試合中の修正力こそが、エメリ体制の最大の強みだろう。
当然、自軍のリード時とビハインド時では、戦い方やフォーメーションが変わり、戦い方はカメレオンのように変化する。こうした柔軟性が、選手たちに確信を与えている。たとえ前半がうまくいかなくても、「次がある」「修正される」という信頼があるからこそ、崩れない。
相手のアプローチや試合の流れに応じて、柔軟に姿を変える。90分を通じて勝ちに行く設計こそが、アストン・ビラの勝負強さの正体だ。
ピッチ上で、最も戦術の恩恵を受けているのは、ワトキンスだろう。イングランド出身のこの30歳CFは今季、特に後半戦から結果を出し、ここまでチーム最多の9ゴールを挙げている。チェルシー戦では、相手のマンツーマン守備と背後のスペースを的確に突き、流れを一変させた。
さらにモーガン・ロジャーズも象徴的な存在だ。トップ下と左ウイングで稼働し、国内リーグで7ゴール(チーム2位)、4アシスト(チームトップ)をマーク。結果を残しているだけでなく、推進力と切り替えの速さでチームを動かしている。
運動量と判断力によってチームのリズムを保ち、現在の好循環を下支えしているのだ。イングランド代表の一員としても活躍しており、レアル・マドリーのジュード・ベリンガムとポジションを争うまでに成長を遂げた。今夏のW杯でも注目の存在だろう。
今季のプレミアリーグで、アストン・ビラは明確に「一段階上の存在」へと進化した。ビッグ6に次ぐ挑戦者という立場を超え、タイトル争いの文脈で語られるチームになった。
その背景には、スタッツに裏打ちされた勝負強さ、選手個々の躍動、そして何よりエメリ監督の卓越した戦術眼がある。
3位という現在地は、その成果に他ならない。アーセナルとの大一番(19節)では1-4で敗れたが、それでも直接対決の舞台に立ち、勝敗が語られる位置にいること自体が、今の力を物語っている。
選手層やシーズン後半の疲労といった課題は残されているが、「勝つ術」を持つチームは簡単には崩れないだろう。エメリの一手が生む好循環は、まだ終わらなそうだ。
取材・文●田嶋コウスケ
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