女子アルペンスキーでミラノ・コルティナ冬季オリンピックのアメリカ代表にも選出されているリンゼイ・ボンは、1月30日に行なわれたワールドカップで転倒し、左膝に重傷を負ってしまった。
スイスのクラン=モンタナで行なわれたW杯のアルペンスキー女子滑降、ジャンプの着地でコントロールを失って転倒したボンは、安全ネットに絡まる形で止まり、その場で治療を受けた後、自身の力でゴールまで滑り降りたものの、ヘリコプターで運ばれた病院では、前十字靭帯断裂、骨挫傷、半月板損傷と診断されている。
2019年に現役を退くも、2024年11月に復帰した41歳のスター選手にとって、自身5回目の五輪出場は絶望的と思われたが、これまでにも大会直前の怪我から幾度も復活を遂げてきたボンは、イタリアでの五輪出場に向けて「自信がある」と語り、全く諦めていないことを強調した(スポーツ専門チャンネル『ESPN』より)。
すでに2月3日には滑走してみせたという彼女は、「膝は腫れていないし、膝用のブレスの助けがあれば、日曜日(8日=女子滑降)にはレースに出場できると自信を持っている。これはもちろん、望んでいた状況ではない。転倒前に自分が持っていたチャンスと、現時点のものが同じではないことも分かっているが、まだチャンスがあることも分かっている。それがある限り、私は挑戦する。スタートゲートに立つために、できることは全てやりたい」と、強い意欲を示している。
「2019年には、(右膝の)前十字靱帯がない状態で、しかも脛骨に3か所の骨折があるまま、世界選手権の滑降でメダル(銅)を獲得することができた。今はまたスキーに戻り、安定していると感じているし、強さも感じている」
最終的な出場の可否の判断は、5日に行なわれる公式練習で下されるとのことだが、チームメイトのイザベラ・ライトは「もし誰かにそれができるとしたら、それはリンゼイしかいない。そうなれば、これまでで最高のカムバックになるだろう。間違いなく最もドラマチックなものだ」と期待を寄せた。
しかし靭帯断裂などという重傷となれば、「歩くことすらままならないのではないか?」「競技などもってのほかでは?」と思うのが当然の疑問と言えるだろうが、イタリアのスポーツ紙『La Gazzetta dello Sport』も「これは勇気なのか、それとも“無謀”なのか?」と綴って、その点に注目している。
『La Gazzetta dello Sport』は、トリノの「チッタ・デッラ・サルーテ病院」整形外科部長であり、トリノ大学整形外科・外傷学の教授も務めるアレッサンドロ・マッセ教授の見解として、次のコメントを紹介している。
「前十字靱帯の機能は、膝の正しい生体力学にとっては不可欠だが、あのレベルのスキーヤーは、筋肉の緊張度(筋力)が非常に高く、前十字靱帯の機能を“代替”することができる。周囲にある全ての筋肉が、膝を安定させることに寄与する。唯一考えられる説明は、それらの筋肉が前十字靱帯の断裂を補えるほどに発達しているということである」
同教授によれば、前十字靭帯が断裂した状態では、サッカーなどの「膝の回旋動作」を伴う競技は不可能だが、アルペンの滑降のような「屈伸運動」であれば、前述のように周囲の筋肉が非常に発達して膝に十分な安定性を与えられることを条件に、可能性は十分にあるという。
とはいえ、「懸念されるのは、滑降における負荷だ。個人的には、もし前十字靱帯を断裂したアスリートに、時速100キロを超えるスピードで滑降する競技に出場する許可を出す立場だったとしたら、非常に大きな疑問を抱くだろう」との見解も示している。
左膝だけでなく、右膝にはチタンが入っており、全身に様々な傷の痕を残しながらも、滑ることは諦めない不屈の精神が、またしても奇跡を起こすのか、期待をもって見守りたい。
構成●THE DIGEST編集部
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