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国内リーグは最短1週間、代表チームは未承認――それでもサッカーをやめないグリーンランドという異世界「人口の10%が選手登録」

国内リーグは最短1週間、代表チームは未承認――それでもサッカーをやめないグリーンランドという異世界「人口の10%が選手登録」


 2026年W杯はアメリカ、メキシコ、カナダの3か国による共同開催だが、全104試合のうち実に78試合がアメリカで行なわれる。実態としては、ほぼ「アメリカW杯」と言っても差し支えないだろう。しかし、その開催国アメリカを巡って現在、いくつか看過できない問題が浮上している。
 
 アメリカでは近年、移民の取り締まりが激化していて、その対象の多くは共同開催国であるメキシコ出身者だ。またイランとの関係も緊張状態にあり、アメリカはペルシャ湾沖に艦艇を派遣し、軍事的衝突も辞さない構えを見せている。そんな情勢のなかで、5か月も経たないうちにイラン代表がアメリカで試合を行なうことが、はたして現実的に可能なのかという疑問は残る。
 
 その意味では、ベネズエラが出場資格を得られなかったことに対し、FIFAが内心ほっとしている可能性すらあるかもしれない。
 
 さらに注目すべきが、グリーンランドを巡る問題だ。トランプ大統領は現在、この島の領有に強い関心を示している。グリーンランドはデンマーク自治領であり、そのデンマーク代表は現在もプレーオフに残っている。チェコ、アイルランド、北マケドニアと争うパスDを勝ち抜けば、W杯に出場できる。
 
 こうしたトランプ政権の政策を背景に、ドイツやオランダを中心として「W杯ボイコット」を示唆する動きも一部で見られる。最終的にボイコットに発展する可能性は低いだろうが、政治を持ち込まないことを建前としてきたサッカーの祭典としては、決して好ましい話題ではない。
 
 もっとも、ここで掘り下げたいのは政治ではない。グリーンランドのサッカーそのものについてである。
 
 あまり知られていないが、グリーンランドはサッカー人気が非常に高い地域だ。FIFAはグリーンランドを独立国として認めていないため、選手たちは原則としてデンマーク代表としてプレーする道しか持たない。しかし実際には、グリーンランド独自の代表チームが存在している。
 
 どの大陸連盟にも加盟していないため、正式な国際大会には出場できないものの、親善試合を行うことは可能だ。昨年も5試合を戦った。デンマークのクラブチームと2試合、アマチュア選手主体の代表チーム(オーストリア、スロベニア)と2試合、さらにドイツの地域代表である南シュレースビヒ代表と1試合だ。成績は1勝1分け3敗だった。なお、FIFAが認める代表チームとの直近の対戦は、24年6月1日のトルクメニスタン戦で、結果は0-5だった。
 
 UEFAにも加盟していないグリーンランドは、昨年6月、CONCACAF(北中米カリブ海諸国サッカー連盟)への加盟申請を行なっている。地理的に遠く離れているため、「近接性の欠如」を理由に却下されたが、それでもなおグリーンランドは一つの“国”としてサッカーをしたいという強い意志を持っている。
 
 このエピソードからも、グリーンランドの人々がどれほどサッカーを愛しているかがわかるだろう。
 
 氷と雪だけの島というイメージを持つ人も多いだろうが、それは一面的だ。たしかに寒冷な気候ではあるものの、天候が許せば、人口約5万5千人の島のあちこちでサッカーボールが転がっている。驚くべきことに、国民のおよそ10%にあたる約5500人が、何らかのレベルのサッカーチームに選手登録しているという。これは世界的にも極めて高い比率だ。
 
 もちろん全員がアマチュアで、多くは漁業など別の仕事で生計を立てている。それでも国内リーグは存在し、開催期間の短さから「世界最短リーグ」とも呼ばれている。リーグ戦は真夏に行なわれ、天候次第では約1週間、最長でも10日間程度だ。
 
 試合はすべて首都ヌークにあるヌーク・スタジアムで開催される。というのも、公式戦が行なえるスタジアムが、ここしかないからである。かつてはスタンドすらなく、観客は周囲の岩場に腰掛けて観戦していたが、16年に2000人収容のスタンドと高品質の人工芝が整備された。新スタジアム建設計画もあるものの、現在は資金難で頓挫している。
 
 直近の国内大会は25年7月23日から8月3日に開催され、8チームが参加。優勝はB-67ヌークで、これが3連覇となった。同クラブは通算16回の優勝回数を誇り、グリーンランドサッカー史上最も成功したチームである。
 
 グリーンランド出身の選手がプロとしてキャリアを築くのは容易ではないが、デンマークでスターとなった例もある。その代表格が、00年代初頭に活躍したウインガー、イェスペア・グロンキアだ。アヤックス、チェルシー、アトレティコ・マドリーなどでプレーし、02年と10年のW杯ではデンマーク代表として出場。グリーンランドの国民的アイドルとなった存在である。ただし、現在のデンマーク代表にグリーンランド出身選手はいない。
 
 両地域のサッカー交流は現在も続いていて、年に一度、グリーンランドのクラブがデンマークに招かれて親善試合を行なうほか、国内王者がデンマークの強豪と対戦するカップ戦も恒例となっている。
 
 そして、グリーンランドのサッカー文化を広く支えているのがフットサルだ。屋内でプレーできるため、厳しい気候に左右されず年間を通して活動できる。ここ10年で学校や公共施設にフットサルコートが数多く整備され、特に子どもたちの間で人気が高まっている。将来、ここから新たなスターが生まれるのではないか──そんな期待が、島全体に広がっている。
 
取材・文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子
 
【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/1963年8月29日生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。ジャーナリストとし中東戦争やユーゴスラビア紛争などを現地取材した後、社会学としてサッカーを研究。スポーツジャーナリストに転身する。8か国語を操る語学力を駆使し、世界中を飛び回って現場を取材。多数のメディアで活躍する。FIFAの広報担当なども務め、ジーコやカフー、ドゥンガなどとの親交も厚い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授として大学で教鞭も執っている。

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配信元: SOCCER DIGEST Web

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