カナリア諸島最大の都市、ラス・パルマスはかつて遠洋マグロ漁業の拠点として栄え、日本の漁船が数多く寄港していた。現在は、その数はピーク時に比べれば大幅に減り、港の主要なビジネスがより広範な「船舶メンテナンスや物流のハブ」へと重心が移り変わりつつあるが、栄華を極めた時代に島に残り、家族を持ち、現地の社会に溶け込んだ日本人の子孫や元関係者たちが、今も静かに「根」を張っている。
同地には現在も在スペイン日本国大使館の附属組織であるラス・パルマス領事事務所が置かれている。同事務所の山田真示所長が、宮代大聖のスペイン2部ラス・パルマス入団に際して寄せた歓迎のコメントを、地元紙『LA PROVINCIA』が報じた。
「(宮代の入団は)我々の国(日本)において、この街の名を一躍注目の的にすることでしょう。カナリア諸島特有の風習への関心が高まり、そしておそらく、より多くの日本人観光者がこの地を訪れるようになるはずです」
「この出来事は、ここグラン・カナリア島(ラス・パルマスがある島)で長い歴史を刻んできた日本人コミュニティーにとって、胸が躍るようなニュースです。同じ日本人がUDラス・パルマスのユニホームを身にまとい、プレーする姿を見ることは、我々にとって大きな誇りとなります。宮代選手は、島で暮らす日本人たちと現地の社会をフットボールを結びつける、ひとつの象徴であり『心の架け橋』となるのです。同時にこれは、共に深い海洋の歴史を共有する二つの文化の結びつきを象徴するものでもあるのです」
ラス・パルマスのフットボール熱は高く、その下部組織の育成レベルはスペイン屈指として知られる。これまでも幾人もの名手を輩出しており、近年ではビジャレアルのアルベルト・モレイロがその代表格だ。高い技術を誇る一方で、伝統的にカナリア諸島出身の選手は精神的に淡泊な側面があるとも言われ、それが勝負所での脆さとなり、1部定着を阻む要因となってきた。しかし、熱狂的なサポーターや立派なスタジアムを含め、このクラブが持つポテンシャルは疑いようもなく1部クラスである。
宮代が参戦するのは、そんな「光と影」が同居する名門だ。入団に際し、彼は次のような抱負を述べている。「世界最高峰のリーグでプレーするのは、僕がずっと抱き続けてきた夢だった。だからこのスペインの地に立てるのは、自分にとって非常に重要な一歩となる。ここで競い合い、チームを1部へ昇格させたいという強い意欲を持っている。早くこのユニホームに袖を通したくて仕方がない」
ラス・パルマスはこの冬、宮代に加え、バルサのカンテラ出身でレアル・マドリーのBチームでもプレーした経験を持つ、スペイン期待のFWイケル・ブラーボ(ウディネーゼからのレンタル)を獲得した。
一方で、前線の顔ぶれの変化は劇的だ。この冬にハイメ・マタ(契約解除)とマルク・カルドナ(2部アンドラに完全移籍)がチームを去り、スペイン紙『Marca』はひとつの異常事態と報じている。イバン・セドリック(トルコ2部のヴァン・スポル)とソリ・カバ(ベルギーのルーベン)を含め、昨年7月の新シーズン始動時に在籍していたFW4人全員が、わずか半年でひとりもいなくなったのだ。さらに、同夏の移籍期間に加入したミロシュ・ルコビッチも今冬、レンタル期間を前倒ししてストラスブールへ復帰した。
まさに「前線大刷新」と呼ぶにふさわしい状況のなか、宮代がポジションを争う相手は手強い。トップではブラーボに加え、昨夏に「3度目の復帰」を果たしたヘセ・ロドリゲス、ベテランのサンドロ・ラミレスがライバルとなり、2列目を見据えるならジョナタン・ビエラ、マヌ・フステル、イバン・ヒル、アレ・ガルシアらとの激しい競争が待っている。
ルイス・ガルシア監督は、宮代を「9番もトップ下もこなせ、身体的な強さと反転の動きに優れる。両足を器用に使いこなしながら周囲と連携でき、シュート技術も素晴らしい。大きなポテンシャルの持ち主だ」と高く評価する。目標は当然の1部昇格。現在は昇格PO圏内の6位に位置する。
かつてマグロ漁船が運んできた「日本の風」を、フットボールという新たな形で呼び戻す宮代の挑戦が、いま始まった。
文●下村正幸
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