現地時間2月15日に開催されるNBAオールスターゲームで、“チームWORLD”を率いるヘッドコーチ(HC)に、トロント・ラプターズのセルビア人指揮官、ダーコ・ラジャコビッチが選ばれた。
「オールスターゲームでセルビアを代表し、カナダを代表し、世界を代表できることは、この上ない名誉だ。選手たちとともに、この素晴らしい祭典に臨めることに、心からワクワクしている」
祭典の1週間後(2月22日)に47歳の誕生日を迎える指揮官は、この栄誉ある任命を受けて、そう喜びを語った。
ラプターズを率いて3シーズン目のラジャコビッチは、一昨季、ニック・ナースの後任に迎えられた際、NBA史上2人目の欧州生まれのHCとなった。
ちなみに1人目は、同じくセルビア出身で、2018-19シーズンにフェニックス・サンズで指揮を執ったイゴール・ココスコフだ。アメリカ大陸以外の出身者で初めてNBAのHCとなったココスコフは、2000年のロサンゼルス・クリッパーズを皮切りに現職のアトランタ・ホークスまで、数々のフランチャイズでアシスタントコーチを務めている。
ラジャコビッチもココスコフ同様、選手としてはプロ経験がなく、10代後半と若くして指導者の道に入った。
ただ、ジョージア(2008~15)、スロベニア(16~17)、セルビア(19~21)など、代表チームのHCとして国際経験も豊富なココスコフとは異なり、ラジャコビッチは生まれ故郷セルビアの地方都市チャチャクのユースチームのコーチからキャリアをスタートさせた。
その後は同国の名門レッドスターのユースチームのコーチを務めると、スペインに渡り、ここで初めて下部リーグのクラブ、エスパシオ・トレロドーネスでHCとなるチャンスを得た。
しかし逆に、下部リーグの小クラブであったことで、選手のリクルートから育成までに携わることができたのは、指導者としてのキャリアを積む上で非常に有益な経験となった。就任時に5部リーグにいたクラブを1年で4部に引き上げると、その後の2シーズンも安定した成績をキープし、その実績を携えてラジャコビッチはアメリカへと渡った。
アメリカで彼の水先案内人となったのは、現在オクラホマシティ・サンダーのゼネラルマネージャー(GM)を務めるサム・プレスティだ。
欧州でのコーチ時代、ラジャコビッチはNBAサマーリーグでサンアントニオ・スパーズのアシスタントコーチを務め、同時に欧州でのスカウトも請け負っていたが、その時、当時スパーズのアシスタントGMだったプレスティと親交を深めたのだった。
その後サンダーのGMとなったプレスティの誘いで、ラジャコビッチはサンダーの下部組織であるGリーグのタルサ・66ers(現オクラホマシティ・ブルー)のHCに就任した。欧州出身者で初の、Gリーグ指揮官の誕生だった。 同職を2年間務めた後サンダーのアシスタントコーチとなるのだが、ここからのキャリアは、まさに人脈が命のNBA界。
ビリー・ドノバンHC時代にアシスタントとしてともに働いたモンティ・ウィリアムズが2019年にサンズのHCに採用されると、彼に請われてコーチングスタッフとなり、翌年には、やはりスパーズ時代に親交のあったテイラー・ジェンキンスの誘いで、メンフィス・グリズリーズのアシスタントコーチとなった。
そしてアメリカに渡って11年が経った23年夏、ラジャコビッチはついに、HCとしてラプターズに迎えられた。
初戦のミネソタ・ティンバーウルブズ戦に臨む心境を、当時彼はこんな風に語っている。
「自国を代表し、ヨーロッパのバスケットボールを代表できるこの機会は素晴らしいものだ。しかし私にできることは、次に控える挑戦への準備をすることだけ。だから、この機会を大げさに捉えすぎないよう自制している。地に足をつけて、今この瞬間に集中することに意識を向けている」
現在シカゴ・ブルズを率いるドノバンは、サンダーでともに仕事をしたラジャコビッチについて「人との関係性を何よりも大事にする人物」と称しているが、それは彼が生きてきた過程での体験にも由来している。
ティーンエイジャーになった頃に旧ユーゴスラビアが崩壊し、貴重な青春時代をラジャコビッチは戦時下で過ごした。その時彼は「謙虚になること、そして自分が持っているものに感謝することを学んだ」と語っている。
「あの頃は決して豊かではなかったが、互いを支え合い、家族や友人がいた。人間としての本質を決めるのは、友人や家族、そして人への接し方だ。NBAのコーチとして十分な収入を得られる立場になっても、私は同じ人間であり続け、すべての人に対して同じ姿勢で接したい」
彼が過去に指導した選手たちは、ラジャコビッチのことを、選手1人ひとりと向き合い、どこを伸ばすべきかを真剣に考え、時には居残り練習にも付き合ってくれる、そんな指導者だと口を揃える。
NBA史上初めて、チームUSAとチームWORLDが対戦する今回のオールスターゲームで、ラジャコビッチはその世界選抜の初代HCとなる。
「ワールドチームの面々は、トップ中のトップだ。そんな世界を代表する選手たちが同じチームに集結するのを見るのは本当に楽しみだ。3、4人は私の母国語を話すから、盛り上がりそうだね。ニコラ・ヨキッチもその頃誕生日(2月19日)迎えるんだ。きっとみんなで楽しい時間を過ごせるさ」
個性豊かなワールドチームにあって、ラジャコビッチは持ち前のコミュニケーション力で絶妙なハーモニーを育むことだろう。アメリカ選抜とどんな戦いを演じるのか、彼の采配にも注目しながら楽しみたい。
文●小川由紀子
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