イガ・シフィオンテク(ポーランド/世界ランキング2位)のショットがわずかにラインを割ると同時に、2時間半の熱戦に終止符が打たれた。ただ勝者は、額を手に当てて小さく天を仰ぎ、喜びを表出することはなかった。
彼女が笑顔を見せたのは、ネット際でシフィオンテクと抱擁と共に、笑みと言葉を交わした後のこと。マリア・サッカリ(ギリシャ/同52位)が2-6、6-4、7-5で逆転勝利し、女子テニスツアー「カタール・トタルエナジーズ・オープン」(2月8日~14日/カタール・ドーハ/ハードコート/WTA1000)でベスト4に進出。2021年以来となる、シフィオンテクからの勝利だった。
現在52位のサッカリだが、2022年3月の時点では世界の6位。当時1位のアシュリー・バーティー(オーストラリア)が突然引退したため、サッカリを含め複数の選手に世界1位の可能性が開かれた。
現にその後の「BNPパリバオープン」(アメリカ/WTA1000)で、サッカリは決勝に進出しトップに肉薄。ただその時、決勝で敗れた相手がシフィオンテクだった。シフィオンテクはその後、「マイアミ・オープン」(アメリカ/WTA1000)も制して世界1位に。以降、長くその座を守り、女子テニス界の顔となった。
他方でサッカリは、2022年3月に世界3位に達したのをピークに、徐々にランキングが下がり始める。2025年5月には92位まで下降し、翌週の結果次第ではトップ100から落ちる危機にも面した。
この苦境でサッカリがしたことは、1年前に決別したコーチのトム・ヒル氏を呼び戻すこと。長年の関係性を一時解消し、再びタッグを組んだ時、コーチはサッカリに「新しい要素」をもたらしてくれたという。
「彼は私のことを良く知っているし、同時にお互いに成長もしている。『我慢の重要性』は、彼が指摘し私も納得した、大切な要素だった」
鍛え上げた右腕から繰り出すスピンの効いた強打は、彼女の武器。それをより効果的に生かすため、浅いボールや、相手を外に追い出すアングルショットを活用し、オープンコートを作ることを心がけた。今回のカタールでは、構築してきた戦略テニスが、跳ねるコートで立体的に描かれる。
第1セットを取った時の勝率は圧倒的なシフィオンテク相手に、粘り強く戦い、試合終盤の神経戦をも制して奪った逆転勝利。それは、ここ1年ほどの取り組みの成果の象徴でもあった。
そんな快勝であるにも関わらず、冒頭に記したように、サッカリの勝利の表出は控えめだった。
理由を、彼女は次のように明かす。
「最後は、本当に少しだけイガのショットがアウトになったが、私は入ったと思ったし、仮に入っていたとしたら完全なウイナーだった。あのような終わり方で喜ぶのは、相手に失礼にあたると感じている。特にイガは、良い友人でもあるのだから」
どこまでも一本気で真摯な競技への姿勢と、相手への敬意。目に強い光を讃え、かつての世界3位が完全復活の狼煙を上げている。
現地取材・文●内田暁
【動画】サッカリがシフィオンテクを逆転で破った「カタール・トタルエナジーズ・オープン」準々決勝ハイライト
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