金メダルには届かなかった。それでも、観客の記憶を奪ったのは平野歩夢選手だろう。
正直、宇宙人だろ。もちろん、良い意味でだ。「平野歩夢」という存在は、もはや人間の常識の枠に収まらない。
大学時代、冬休みはスキー場で住み込みのアルバイトをしていた。空き時間にゲレンデへ出たが、怖かったのはハーフパイプの急斜面だ。円柱を縦に半分に切ったようなU字型のコース。その表面はコンクリートのように硬く、転倒すれば全身に衝撃が走る。メイクどころか、滑るだけでも神経をすり減らした。
一歩間違えれば大事故。個人的には、ハーフパイプは“極限競技”だと今も思っている。
そのハーフパイプに負傷も癒えないまま臨む。平野選手はどういう思考回路をしているのだろう。1月17日のワールドカップ第5戦(スイス)での転倒で骨盤の右腸骨と鼻骨を骨折し、さらに右膝も負傷。それでも、その3週間後に臨んだ五輪の大舞台で激走するのだから、常識の物差しでは測れない。
女子ハーフパイプ決勝で大転倒しながら3本目で逆転劇を演じたチェ・ガオン選手(韓国)と同じように、平野選手にも恐怖に屈しない“信念”という槍が身体の芯に突き刺さっているのだろう。頭から落ちれば生死さえ危ぶまれる危険と隣り合わせの状況で、しかも平野選手は負傷を抱えながら今回の決勝に臨んだわけだから、そのメンタルには敬意を払わざるを得ない。
決勝1本目で転倒も、同2本目で「フロントサイド・トリプルコーク1440」など貫禄の演技でフルマークし、86.50点。同3本目は転倒だったが、骨盤骨折をしながらもこの滑りである(最終順位は7位)。
五輪連覇こそ逃したが、それで平野選手の功績が色褪せるわけではない。むしろ、今回の挑戦こそ、後世に語り継がれる“超人伝説”になる。
何度考えても、次の結論に行き着く。
規格外の覚悟を示した平野歩夢は、良い意味で——宇宙人だ。
文●白鳥和洋(サッカーダイジェストTV編集長)
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