失意のショートプログラム5位から、フリーで世界歴代最高点を叩き出し、大逆転金メダルを勝ち取ったフィギュアスケートの三浦璃来、木原龍一「りくりゅう」ペア。2人が逆転フリーの演技で選んだ曲は、2000年に公開された映画「グラディエーター」(リドリー・スコット監督)のテーマソングだった。
「グラディエーター」は、裏切り者の汚名を着せられたローマ帝国の名将マキシマスが妻子を惨殺され、コロッセオで闘う奴隷剣闘士の身からローマ皇帝に復讐を誓う悲劇の物語。
五輪の舞台でのこの選曲には、スケート連盟や関係者から懸念の声が出たという。映画のイメージと剣闘士の勇ましいイメージが、優雅なフィギュアスケートに合わないと指摘されたのだ。
だが前回の北京五輪後、木原は盲目のテノール歌手アンドレア・ボチェッリが歌う「イタリア語版グラディエーターのテーマ」で滑りたいと訴え続けた。三浦もイタリア人選手からこの曲の歌詞を解説されて、木原に賛同。今から1年前、当初の予定曲からミラノ五輪の勝負曲に変更したという。
その歌詞をざっと意訳すると、こんな感じだ。
〈君の中にあったのはただの夢だった/でももうすぐその夢は現実になる/今、君の情熱が育ち/千の試練の中でも君を導く/自分を信じて/忘れないで、それは君次第なんだ〉
〈道の途中で恐れるな/魂を純粋に保てば/不安があっても勇気で切り開ける/自由な息吹/魂の叫び/望むなら/君の運命を手に入れられる/絶対に諦めるな〉
まるで逆境から頂点を目指した2人の、揺るぎない意志を歌っているようではないか。まさかのリフトミスから5位に沈み、失意でまる1日、泣き続けたという木原が一夜明けたフリーで平常心を取り戻せたのは、三浦の励ましと2人で決めた曲のポジティブな世界観に没入できたからだろう。
(那須優子)

