こんなスタートはなかなかない。
第6回WBCに臨む侍ジャパンが2月22日、初めてソフトバンクとの対外試合を行い、13対3で圧勝した。7回裏の攻撃を前に雨のためコールドで打ち切りになったとはいえ、初回から4得点を挙げるなど打線が爆発。2本塁打を含む16安打の猛攻にはちょっと驚いた。
過去の代表チームは対外試合の初戦で苦戦することが多く、不安要素が残ったものだ。中盤まで打線が機能せず、相手の投手レベルが落ちてようやく得点するということが多かったが、この日は1番に入った近藤健介が中前安打で口火を切ると、5連打で畳み掛けて試合の大勢を決めたのである。
「5回までしっかり試合に出れましたし、良い当たりは出せたんで良かったと思う」
侍ジャパンの4番に入り、3安打5打点と活躍した佐藤輝明(阪神)は笑顔を見せた。シーズンオフから取り組んでいる「脱力しながらスウィングする」ことができていると、手応えを感じているようだ。
これで今大会は安心だというわけではないが、いつもよりエンジンの回転数が高いことにいささか驚きを隠せない。これほどまで初戦の序盤から打線が機能したことはあっただろうか。指揮官の井端弘和はこう話す。
「練習の雰囲気を見てて例年よりっていうか、僕のイメージしてるよりみんな状態がいいなとは思ってたんですけど、やっぱり、今日の特に試合前のバッティングは短い時間でやっている中でもまたギアが上がったなっていうふうには思いました。非常にいい状態でバッターは来てるのかなと思います」
指揮官の目に攻撃陣の状態の良さが目立つようだが、ふと考えたのはこれまでのチームとは何が違っているのかという点だ。もちろん、メジャー組が参加してからチームというのはできあがっていくし、最終判断はその時にしなければいけないが、現時点で流れているチームの空気にこれまで以上のものがあるのだろう。
佐藤が面白いことを言っていた。
「いろんな選手と(技術の)話をしますし、練習だったり実践の中で試していいものがあれば使えるかなとか考えながらやっています。その中で(今日は)持ち味の長打が出せて良かった。しっかりアピールできれば、チャンスが出てくると思うので、しっかり自分のやるべきことができるように準備はしておきたい。僕はしっかりどんなところで回ってきても、仕事ができる準備をするだけだと思います」
国内選りすぐりの打者ばかりなので、練習の合間でもたくさんの議論が交わされる。それは今年のチームに限ったことではなく、侍ジャパンが例年持つ良さだ。前回大会中も山田哲人(ヤクルト)が「いろんなバッターの考え方を聞いて、僕に合う、合わないがあって、それはすごく勉強になりました。山川(穂高/現ソフトバンク)さんとは話があいました」と話していた。
トップに君臨する選手たちは皆、お互いをリスペクトしながら、そうやって自身を高めている。そして、何より、昨季は甲子園を本拠地としながら40本塁打というとてつもない数のアーチをかけた佐藤が、ポジションを確約されていないことを前提に話しているというのも、いい効果が生まれている点だろう。佐藤の「アピールをしていく」との発言に、このチームに流れている空気の良さを感じる。
2安打1本塁打4打点をマークした同じ阪神の主軸・森下翔太も同様だ。
「まずアピールできたところがよかったなと思いますし、ポジションもレフトもセンターもできたっていうのがすごくよかったなと。スタメンでも途中でもどこでもいける準備はできますし、どこを任されても自信を持って送り出してもらえるような守備力と、今日みたいなワンチャンスをものにする打撃っていうのを心がけて頑張りたいなと思います」
国内トップチームの主軸を打つ2人が、今大会のメンバーに選出されているのは至極当然のことだ。我々も彼らが世界と戦う姿を見たい。ただ、今大会には岡本和真(ブルージェイズ)村上宗隆(ホワイトソックス)、吉田正尚(レッドソックス)ら前回大会を経験したメジャーリーガーの存在があるという厳しい現実もある。
いわば佐藤、森下といった他球団からも怖れられ、また、尊敬の念を抱かれている選手が、大活躍してもなお「アピール」を口にしているわけだ。
井端監督は競争意識をあおるようなことは言っていないものの、自然と自身が悩むような状態が理想と話す。対外試合の初戦から好調の背景にあるのは、国内のトップの打者でさえもアピールしようという空気が合宿にはあり、その空気が今年のチームが持つ強みの一つかもしれない。
井端監督は慎重に言葉を選び、次戦に前を向いた。
「ただ、打線は水物。油断することなく、各々が強引にならないで、練習の時にまた修正をしながら。開幕を迎えたいと思います」
この日、菅野智之(ロッキーズ)、菊池雄星(エンゼルス)のメジャー投手2人がチームに合流した。菅野はブルペンでピッチングを披露。菊池は朝に着いたばかりなのに、トレーニングに講じていた。
彼らがチームに入って練習を開始したことは、大会が少しずつ近づいていること感じさせた。これから多くの選手たちが合流し本番に向かう。その前に打線が爆発した。一つの景気付けになったような気がする。
文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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