
「難しい決断だった」残留決意の佐野航大は未来永劫、NECで“愛される存在”になった。開始23分、1万2000観衆が「サーノ、サーノ、サーノ」の大合唱【現地発】
2月21日、アヤックス対NECが1-1の引き分けに終わると、MF佐野航大(NEC)は仰向けになって、しばらく立ち上がれなかった。主将のMFチェロン・シェリーが手を貸し、起き上がってもしばらく膝に手をついたまま微動だにしなかった。
「力が抜けましたね。(2月4日のKNVBカップ、フォレンダム戦(◯1-0)から)5試合連続だったのでキツかったです。『まだまだだな』と思いました」
39分、アヤックスの左SBワインダルのドリブルを自陣近くで止めた佐野は、そのままボールを保持して一呼吸置いた。そこをアヤックスのタレントふたり、ホッズとブニダに挟まれてボールをロスト。そのままホッズに先制弾を決められた。
「失点に絡んだところが一番(まだまだ)だと思うんですけれど、そこから自分があのミスを取り返すくらいのプレーをやらないといけない。やっぱりボールを受けるところとかで、ビビってたのかなと思います。振り返ると、自分の中でそういうことを思いました」
ビッグマッチでの佐野の痛恨のミスは、大きなトピックになった。ディック・スフローダー監督もそのことを厳しく指摘したが、繰り返しオランダメディアから問われるうちにこう答えた。
「やってはいけないミスを、やってしまうのは構わない。あれ? 俺、今、変なことを言ったかな?(笑) そもそも、あのミスを除けば航大は相手のプレスを剥がしたり、いいプレーがいっぱいあった」
「やってはいけないミスを、やってしまうのは構わない」という表現は矛盾を孕むが、若手選手にとって成長の早道だ。実戦でプレー→トライ→成功と失敗→自信を付けること&課題を克服すること、の繰り返すができ、若手選手のミスに寛容な文化があるのが、自他ともにステップアップリーグと認めるオランダリーグの特徴。その恩恵を受ける佐野はリーグを代表するMFのひとりになった。昨季、PSV戦の開始早々、佐野が不用意なファウルで退場したことを、今やオランダ人ですら即座に思い出すことはできないだろう。
タレントの宝庫であるオランダリーグ。今季はアヤックスのベルギー人左ウインガー、ミカ・ホッズ(20歳)、AZの中盤で創造性とサッカーIQの高さを示すケース・スミット(20歳)、そして佐野(22歳)の3人が若手のフロントランナーだ。
特に佐野は冬の移籍市場でアヤックスが本格的に獲得に乗り出し、さらにプレミアリーグやブンデスリーガのクラブからのオファーも報じられるなど、“時の人”になった。そのせいか、対戦チームの若いMFたちが、佐野に対してライバル心をむき出しにしてワン・オン・ワンに挑んでくる。アヤックス戦では18歳のストゥルがそうだった。
「そうですね。自分は誰が相手でも関係なく、いつも通りにプレーすることを心がけてますが、『(ストゥルは)いい選手やな』と思いました。ボールの持ち方もそう。懐の深いボールの持ち持ち方ということもあって、あんまり飛び込めないし、上手い選手だなと思いました」
2月11日の対ユトレヒト(●1-3)ではフェイエノールトからローンでプレーしているMFゼヒエル(21歳)が目の色を変えて佐野との攻防を繰り広げた。若い選手たちが佐野のことを相当意識しているのではないか?
「自分はあまり感じない。でもそうやって見られているのであれば、あの強度の中で、しっかり出し抜いていかないといけない」
NECは3位と絶好調。2位フェイエノールト、4位アヤックスとともに、CL/EL出場権を競っている。
そんななか、高みを目ざすためにクラブとともに一緒に闘ってほしいという首脳陣の熱意に応え、佐野はシーズン後半戦もNECで戦うことを決意し、「難しい決断だったけれど、NECで頑張ります」とクラブチャンネルで佐野はファンにメッセージを送った。NEC関係者によると、クラブは日本語インタビューを提案したが、佐野が「ぜひ英語で伝えさせてくだい」と願ったのだという。
冬の移籍市場が明けた最初のゲーム。対フォレンダムの開始23分、23番の背番号を着けた佐野に向かい、ホーム“ホッフェルト・スタディオン”を埋めた1万2000の観衆が「サーノ、サーノ、サーノ」と声を枯らせて叫び続けた。アヤックスやプレミアリーグ、ブンデスリーガのクラブからオファーをもらえば、NECの選手の答は一択。移籍だ。しかし、佐野はNECに残ったうえ、正直な思いを英語でファンに伝えたのだ。
もちろん佐野はまだ小野伸二や中村俊輔のようなビッグネームではない。それでも“フェイエノールトの小野”、“セルティックの中村”のように佐野は未来永劫、NECのファンから愛され続ける存在になった。彼が来夏、NECを去り、次のステップへ進むことになれば、ファンの誰もが感謝の念とともに祝福するだろう。
佐野は高いパフォーマンスを発揮し、NECの勝利に貢献することで、日本代表の森保一監督にその実力を認めてもらわないといけない。
「ワールドカップは絶対に選ばれたいという気持ちが強いので、そこに標準を合わせて『今、何ができるか?』というのを日々、考えながら練習に取り組んで、それを自チームの試合で見せていかないといけない。3月の代表に選ばれるよう、しっかりアピールしないといけないので、日々の積み重ねが大事。そこを疎かにしたら(3月の代表入りは)ないと思うので、1日1日、こだわりながらやっていきたいです」
取材・文●中田 徹
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