
約2800年前、ヨーロッパの一角で何が起きていたのでしょうか。
セルビア北部の遺跡から、女性と子どもを中心とする大規模な集団埋葬が発見されました。
しかもその多くが、明らかに暴力によって命を奪われていたのです。
この衝撃的な発見を報告したのは、英エディンバラ大学(The University of Edinburgh)らが主導する国際研究チームです。
研究の詳細は2026年2月23日付で学術誌『Nature Human Behaviour』に掲載されました。
目次
- 女性と子どもが多数を占める「異例の集団墓」
- なぜ女性と子供が狙われたのか?
女性と子どもが多数を占める「異例の集団墓」
発見されたのは、セルビア北部フルトコヴツィ近郊にあるゴモラヴァ遺跡です。
ここは川沿いに位置し、紀元前6千年紀から利用されてきた長い歴史を持つ集落跡です。
問題の集団墓は、直径約2.9メートル、深さ約0.5メートルと比較的小規模な埋葬坑でした。
しかし、その中から見つかったのは77人分の人骨でした。
分析の結果、40人が1~12歳の子ども、11人が青年、24人が成人であることが判明しました。そして成人の87%が女性でした。
全体としても7割以上が女性と子どもだったのです。
【研究チームが描いたイメージ画像がこちら】
研究者らは、このように女性と若年層が圧倒的多数を占める集団墓は、ヨーロッパ先史時代では極めて例外的だと指摘しています。
さらに衝撃的なのは、頭部に集中して見つかった外傷です。
鈍器による殴打や刃物による刺創など、意図的で致命的な暴力の痕跡が多数確認されました。
損傷の位置から、加害者が被害者より高い位置にいた、あるいは馬上から攻撃した可能性も示唆されています。
つまりこれは、偶発的な争いではなく、「残忍で計画的かつ効率的」な殺害だったと研究チームは結論づけています。
なぜ女性と子供が狙われたのか?
さらに興味深いのは、DNA分析と同位体分析の結果です。
遺伝子分析では、77人のうち近縁関係にあった人はごく少数でした。つまり、親類関係にある家族の集落がまとめて襲撃されたという単純な図式ではないのです。
また、歯のエナメル質に含まれるストロンチウム同位体の分析から、3分の1以上がゴモラヴァ周辺以外で育ったことがわかりました。
彼らは多様な出自を持つ人々の集合体だったのです。
【実際に発見された埋葬地の遺骨がこちら】
埋葬の様子も特異です。
墓の周囲には柱穴があり、何らかの構造物が設けられていた可能性があります。
青銅製の装身具や土器、50~100体にのぼる動物の骨も出土しました。墓の最下層には子牛の完全な骨格もあり、儀礼的な屠殺(とさつ)が行われたと考えられています。
さらに墓の上からは、穀物を挽くための石製ひき臼の破片や焼かれた種子が見つかっています。
これは単なる埋葬ではなく、儀式的な演出を伴った埋葬だったことを示しています。
研究者らは、紀元前9世紀のカルパチア盆地では、移動型と定住型の集団が再編成され、土地利用や権力構造をめぐる緊張が高まっていたと指摘します。
今回の事件は、そのような社会的変動の中で起きた「標的型の集団殺害」だった可能性が高いとされています。
女性と子どもは共同体の再生産と存続に不可欠な存在です。
その系譜を断つことは、相手集団の未来を奪うことを意味します。
今回の殺害とその後の記念碑的な埋葬は、土地と資源をめぐる権力の再調整を狙った行為だったと解釈されています。
暴力を「記憶」する社会
ゴモラヴァの集団墓は、単なる虐殺の痕跡ではありません。そこには、殺害、埋葬、そして儀式的な演出という一連の行為が刻まれていました。
遺体は無造作に捨てられたのではなく、時間と資源をかけてまとめて埋葬され、集落塚の上に記憶の場として残されました。
それは、暴力そのものを共同体の歴史に刻み込む行為だったのかもしれません。
2800年前のセルビアで起きたこの事件は、先史時代のヨーロッパにおいても、戦略的で組織的な集団暴力が存在していたことを示しています。
参考文献
Mass killing uncovered at ancient burial site
https://www.ed.ac.uk/news/mass-killing-uncovered-at-ancient-burial-site
2,800-year-old mass grave of women and children discovered in Serbia reveals ‘brutal, deliberate and efficient’ violence
https://www.livescience.com/archaeology/2-800-year-old-mass-grave-of-women-and-children-discovered-in-serbia-reveals-brutal-deliberate-and-efficient-violence
元論文
A large mass grave from the Early Iron Age indicates selective violence towards women and children in the Carpathian Basin
https://doi.org/10.1038/s41562-025-02399-9
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

