ハックション! そんな忌々しいくしゃみの音が、日本列島を包み込む季節がやってきた。だが今年は少し様子が異なっているようだ。政府がブチ上げた「花粉症解決に向けた杉林の伐採・植え替え」が全国で本格化。長年、花粉症という国民病に苦しんできた人たちにとっては待望の施策に思えるが、実はこの杉伐採が、地方の山間部で凄まじい火種を撒き散らしているのだ。
「伐採が始まった途端、日当たりが激変したことで、隣接する土地の住民から『ウチの生垣が枯れた』『日差しが強すぎて家が傷む』といった苦情が殺到しました。さらには伐採後の境界線が曖昧になったことで、代々の地主同士が怒鳴り合う境界トラブルが全国で頻発しています」
そう言って溜息をつくのは、現地を取材した社会派ジャーナリストだ。
いや、問題はそれだけではない。作業車が撒き散らす騒音や、雨の日の泥跳ねをめぐる「山林ハラスメント」なる言葉まで誕生。挙句の果てには、杉がなくなったことで地盤が緩み、春の長雨による土砂崩れのリスクを懸念する声が上がっているのだ。
そしてこの事態に拍車をかけているのが、伐採利権に群がる「ハイエナ業者」の存在だった。
「政府の補助金を狙って、実績のない業者が次々と参入しています。彼らは地元の感情などお構いなし。強引に山を削り、補助金をせしめたら、あとは野となれ山となれ。自治体側は『花粉症ゼロ』という政治目標の達成に焦るあまり、こうした業者の暴走を黙認しているフシがありますね」(前出・ジャーナリスト)
花粉によって鼻を啜るのを止めるために、土砂崩れの恐怖と隣人トラブルに悩まされる。この「犠牲の構造」は、どことなくエネルギー政策の歪みにも似ている。
「杉を切れば全て解決という単純な話ではありません。生態系の破壊や保水能力の低下など、数十年後にツケが回ってくる可能性は高いでしょう」(環境ジャーナリスト)
クシャミひとつで、山村の平穏が薙ぎ払われる。この春、私たちが手に入れるのは澄んだ空気か、それとも荒廃した山河の無惨な姿なのか。国策という名の「毒」が、静かに日本の背骨を蝕みつつあるのは確かだ。
(滝川与一)

