現地3月8日、イタリアはもちろん国外からも大きな注目を集めて行なわれたセリエAのミラノダービーは、2位ミランが首位インテルを1-0で下し、勝点差を10から7に詰めて逆転優勝の可能性に望みをつなぐ結果となった。
会場となった「カルチョのスカラ座」ことサン・シーロはもちろんソールドアウトの超満員。1試合あたりの入場料収入は900万ユーロ(約16.4億円)に迫るセリエA記録となった。
ホームのミランは先頃発表したばかりの4thキット(ストリート系ファッションブランドSlam Jamとのコラボレーション)のデザインテーマで「Benvenuti all'inferno(地獄へようこそ)」というメッセージをスタジアム内外に配したいくつもの大型サイネージに表示して、決戦の雰囲気を盛り上げる。
ただし、ダービーの風物詩たるべきゴール裏のコレオグラフィーは、昨シーズン半ばに起こった両ウルトラス幹部の一斉検挙(マフィアとの癒着に絡んだ内部抗争がきっかけ)以来続いている警察からの締め付けにより、今回も実質見送り。特にミラン側のクルバ・スッド(南ゴール裏)は、コレオどころか横断幕やフラッグ類も全面的に自粛して声による応援だけに徹した。
一方、インテル側のクルバ・ノルド(北ゴール裏)は、翌3月9日がクラブの創立108周年記念日ということから、選手入場時に全員が「9 Marzo 1908」という創立の日を記したマフラーを一斉に掲げ、「AMO TE COME NON HO FATTO IN FONDO CON NESSUNA(ここまで愛してるのはお前だけ)」という横断幕を張り出すに留まった。
コレオグラフィーなしとはいえ、スタジアム全体が沸騰するような熱気はミラノダービーならでは。ミランのキックオフでスタートした試合の構図は、予め明確なように見えた。ボールを握り主導権を握って試合を進めたいインテル、ボールを相手に持たせつつも隙を見せずに反撃のタイミングをうかがうミラン、というそれだ。
しかし意外なことにミランは、立ち上がりからラファエウ・レオン、クリスチャン・プリシックの2トップに加えてインサイドハーフのユースフ・フォファナを前に出し、前線からインテルの3バックにマンツーマンでプレッシャーをかけていく。そして開始わずか3分、GKヤン・ゾマーの中途半端な球出しをカットしたプリシックからのパスを受けてルカ・モドリッチがシュート。枠は外したものの、ハイプレスを通してインテルに心理的圧力を加えることに成功する。
とはいえ、インテルは勝つこと以上に負けないことが大事、ミランはミランでボール支配よりも心理的な主導権を握ることが大事、という双方の思惑もあり、試合はそこから、どちらも相手ゴールに迫れないまま中盤での攻防が続く膠着した展開に入っていく。前半30分過ぎまで両チームとも枠内シュートはゼロ、と言えば内容の想像はつくだろう。
ミランを率いるマッシミリアーノ・アッレーグリ監督のサッカー哲学はきわめて明確だ。すなわち、できる限りリスクを冒さず手堅くプレーすることを通じて「ボールを持たずに試合をコントロール」し、試合の中に予測不可能な状況が生まれる可能性を最小化しながら相手にリスクを冒すよう仕向ける。そしてそれを逆手に取って作り出したチャンスをモノにしたら、そこからはまたノーリスクで戦って勝利を持ち帰る。重要なのは華麗なサッカー、美しいプレーを見せることではなく、リスクを冒さずミスも犯さず、試合の流れを理解して決めるべき時に決めること――。
今シーズンのミランは、モドリッチ、アドリアン・ラビオという経験豊富なリーダーの下で、アッレーグリのこの哲学を全員が体現するチームに仕上がってきている。それを象徴するのが、ここまでわずか2敗しかしておらず失点もリーグ最少という数字。開幕節でクレモネーゼに敗れ、パルマに1分け1敗、ピサ、ジェノア、フィオレンティーナという下位チームに引分けという取りこぼしがあるものの、上位陣との直接対決では1敗もしていない。
このダービーでの戦いぶりも、内容、結果の両面でそんなアイデンティティーをはっきりと反映するものだった。
試合を決定付けたのは、前半34分から35分にかけての、わずか1分半ほどに起きた攻防だった。最初にビッグチャンスを作ったのはインテル。中盤のこぼれ球を拾ったピオトル・ジエリンスキからのパスをセンターサークル付近で受けたヘンリク・ムヒタリアンが、そのままドリブルで持ち上がり、並走するニコロ・バレッラ、アンジュ=ヨアン・ボニーとともにミランのCBに対して3対2の数的優位でカウンターアタックを仕掛ける。しかしフリーでエリア内に侵入したムヒタリアンは、ゴール中央に立ちはだかったGKマイク・メニャンに至近距離からのシュートを当ててしまう。
そのリスタートから始まったミランの攻撃、右サイドから組み立てた後、レオンとのワンツーで中盤中央に流れたフォファナが、逆サイドの左大外からインテル最終ラインの5人目ルイス・エンリケの背後を取って裏に飛び出したペルビス・エストゥピニャンに絶妙なスルーパス。フリーでエリア内に侵入したエストゥピニャンは、そのまま強烈なシュートでニアハイを撃ち抜いた。
結果的に決勝点となったこのゴールを決めたエストゥピニャンは、この日のスタメンで唯一の非レギュラーで、試合のプレビューでは最大の不安要素と見なされていた選手。ブライトンからレギュラー候補として加入しながら、10月に故障で戦列を離れてからは若いダビデ・バルテザーギにポジションを譲る形で控えの座に甘んじていた。攻撃力は評価されているものの、守備ではやや集中力と注意力に欠け、戦術的なミスを犯しがちなところが弱点という評価だった。
しかしこの試合では、守備でもマッチアップしたL・エンリケをよく抑えただけでなく、やはり攻撃型で守備に難点のある相手を出し抜く形で裏に抜け出しての大殊勲。試合の序盤からタッチラインのすぐ外にいるアッレーグリ監督に、裏を狙えと繰り返されていたその通りの形で奪ったゴールだった。
ビッグチャンスを逃した直後に喫したこのゴールを境に、それまでやや押し気味に試合を進めていたインテルは明らかに意気消沈。先制したミランがリードだけでなく精神的優位も手に入れ、「ボールを持たずに試合をコントロール」する状況を確立する。その流れは後半に入っても変わらなかった。インテルは53分にフェデリコ・ディマルコがゴール正面でフリーになるビッグチャンスを決め損ねたのを除き、ミランの堅固なローブロックを崩すことができないまま、試合終了のホイッスルを聞く結果となった。
インテルは、前線ラウタロ・マルティネスとマルキュス・テュラム、中盤のハカン・チャルハノールという主力中の主力(得点の多い順から3人)を欠いたのが痛手だった。代役の若いフランチェスコ・ピオ・エスポージトは、ゴールに背を向けDFを背負って縦パスを収める仕事だけて精一杯。もうひとりのFWボニーも、ストラヒニャ・パブロビッチ、デ・ヴィンターというミランDF陣とのデュエルで劣勢に立たされ、目立った仕事はほとんどできずに終わった。20歳のエスポージト、22歳のボニーはともに大きな伸びしろを残したタレントだが、このレベルのビッグマッチにはまだ役者が不足していた感は否めない。
ただ、この明白な戦力的ハンディキャップを脇に置いても、この日の戦いぶりが期待を下回る内容に留まったことも確かだ。2月18日のセリエAユベントス戦で、ピエール・カルルの退場を誘ったアレッサンドロ・バストーニのシミュレーションが国中を巻き込む大論争を引き起こして以降、CLプレーオフでボデ/グリムトに2試合ともに完敗を喫し、コモと引分け、そしてこのダービーでの敗戦と、重要な試合すべてで精彩を欠くパフォーマンスに終始しているのは、シーズン終盤にさしかかって高まるプレッシャーの前に、心身のストレスが極限に近づいているサインなのかもしれない。
ダービーに敗れたとはいえ、セリエA残り10試合で2位ミランに7ポイント差は、インテルにとってきわめて有利な状況であることに変わりはない。とはいえ、イタリアでよく言うところの「できるのはスクデットを失うことだけ」(もう実質的に勝ち取っている状況のため)という立場に置かれていることも事実。今後さらに高まっていくであろうプレッシャーに打ち勝って、最後まで首位の座を守り切ることができるかに注目したい。3月14日に行なわれる次節のアタランタ戦は、その試金石となるだろう。
文●片野道郎
【動画】2位ミランが首位インテルを倒した白熱のミラノダービー
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