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【WBCコラム】野球を愛する伊紙記者が体験した「想像すらできなかった現実」イタリア大旋風に国内メディアが一変「前代未聞の出来事」

【WBCコラム】野球を愛する伊紙記者が体験した「想像すらできなかった現実」イタリア大旋風に国内メディアが一変「前代未聞の出来事」

マイアミの夜、サム・アントナッチがダニエル・パレンシアの投球を空振りし、すべてが終わった後、イタリア代表のフランシスコ・セルベリ監督はこう語った。

「私にとって、我が選手たちはこの大会のチャンピオンだ。彼らはイタリアの野球に革命を起こした」

 そう、その意味では、確かにイタリアは勝利した。

 キャプテンのビニー・パスカンティーノが付け加えたように、このチームの第一の目標は「イタリアでもっと野球を広めること」である。そして今回、“アメリカのアッズーリ(イタリア代表の愛称)”は、イタリアで野球が人々の話題に上らせることに成功した。これはまさしく偉業と言ってもいい。

 すべてを変えたのは、アメリカ戦での勝利だった。過去のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でも、イタリアはカナダ相手に2度、メキシコ相手に2度というように、重要な勝利やセンセーショナルな勝利を挙げてきた。2023年にはキューバを破っている。

 しかし、それでも野球はニッチな存在から脱することができず、当時の報道も3大スポーツ紙(ガゼッタ・デロ・スポルト、コリエレ・デロ・スポルト、トゥット・スポルト)に短い記事が載っただけで、衛星テレビでごく限られたファン向けの放映があっただけだった。

 だが、今回は違った。

 イタリアの快進撃は大きな反響を呼び、数百万人のスポーツファンが、世界屈指の強豪国を次々と打ち負かす様子を驚きと好奇の目で見つめた。突如として現われたアッズーリのユニホームをまとう強いチームは、いったいどこから来たのだろうか。彼らの活躍はテレビやラジオへと波及する連鎖反応となった。

  私は子どものころから熱狂的な野球ファンであり、『ガゼッタ・デロ・スポルト』紙で記事を書き始めてから31年になる。だが、我が紙がこれほど野球に多くの紙面を割くのを見たのは今回のWBCが初めてだった。

 アメリカに歴史的な8対6の勝利をした日以来、ガゼッタ紙は毎日、少なくとも1ページは野球にスペースを与えてくれるようになった。トリノに本拠を置くイタリアの主要日刊紙のひとつ『ラ・スタンパ』紙などは、アメリカに勝利した日、歓喜に湧く選手たちの写真をなんと1面に掲載した。イタリアでは前代未聞だ。

 記事では選手たちのファミリーの歴史を振り返り、19世紀末から20世紀前半にかけて移住した数百万人というイタリア移民たちの壮大な物語が語られる。故郷を離れた祖父母や曽祖父母の話を読むにつれ、彼らの元々の出身地の人々が“おらが町”の選手たちを応援し始めた。

 南はシチリア、カラブリア、カンパニア州、北はフリウリやトレンティーノの山岳地帯まで。彼らのルーツがある市や自治体がこぞって動き出し、故郷の地を訪れてほしいと呼びかける。まるで歴史の大きなループがつながったようだった。

  テレビや新聞は、選手たちが見せるいわゆる“イタリア風”なセレモニーも大きく取り上げた。大袈裟な身振り手振りをし、ことあるごとにエスプレッソを飲む。正直、ステレオタイプで多少自虐的でもあったが、まあ、それもまた一興。イタリア人のお気に召した。

 なぜならアメリカ在住のイタリア系の人々は、今でも昔のイタリアらしさを受け継いでいる。祖父母の時代の伝統や仕草、さらには言葉さえ守り続けている。だからイタリア人からすると、このイタリアチームの様子はまるでタイムマシンに乗って昔を見ているようで、とても魅力的なのだ。

 大会の終盤には、イタリアの有名なコーヒーブランド「ラバッツァ」(テニス選手のヤニック・シナーが広告塔)が彼らに注目し、フランシスコ・セルベリ監督に加え、ガブリエレ・クアトリーニとクラウディオ・スコッティ――つまり、イタリア生まれでイタリア野球界育ち、現在イタリアのリーグで活躍する3人の投手のうち2人――を起用してCMを制作した。クアトリーニはマチェラータ、スコッティはパルマでプレーしている。

  WBC開幕当初、WBCは有料衛星放送『SKY』でのみ放送(ただし無料放送で誰でも視聴可能)される予定だった。それがブラジルとイギリスに勝利した後、事態は急展開。公共放送『RAI』も放送を開始した。この判断は大成功で、試合開始は深夜だったにもかかわらず、視聴率は7.4%、視聴者数は28万人に達した。

 もちろん絶対数としては多くないが、試合が午前3時過ぎに終了したことを考えれば、そしてイタリアの野球人口が約1万5000人であることからすれば、とんでもない数字である。

『RAI』自体もこの結果に満足したようで、ベネズエラとの準決勝も生中継。そして――信じられないことに――イタリアが関係ないアメリカ対ベネズエラの決勝も『RAI』は放送した。これは我々イタリアの野球ファンが想像すらできなかった現実だ。

文●マリオ・サルビーニ(ガゼッタ・デロ・スポルト紙記者)
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
マリオ・サルビーニ(Mario SALVINI)/イタリア大手スポーツ紙『Gazzetta dello Sport』記者。2003年から野球やソフトボールをはじめ、F1、フォーミュラE、MotoGP、バレーボール、ビーチバレーなどを担当。とりわけ野球をこよなく愛しており、21年にジャッキー・ロビンソン、ジョー・ディマジオ、ヨギ・ベラ、デレク・ジーターらの人生を描いた著書「Il diamante è per sempre(ダイヤモンドは永遠に)」、25年には困難や失望を乗り越えて成功を手にしたスポーツ選手にスポットを当てた「Campioni da favola(おとぎ話のようなチャンピオン)」を上梓した。

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配信元: THE DIGEST

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