もっとも、インテリジェンスのプロは、トランプ氏の願望はなかなか実現しないと見ている。
筆者は、外交官時代から30年近く家族ぐるみで付き合っている元モサド幹部と3月8日(日)午後6時半頃(日本時間。イスラエル時間同日午前11時半)、通信アプリで意見交換をした。そのやりとりのうち興味深い部分を紹介する。
─イスラエル軍とアメリカ軍によるイラン攻撃をどう評価するか。
「確実に言えるのは、イランの軍事力に壊滅的な打撃を与えたことだ。イランの軍事力の90〜95%が破壊された。しかし、イスラム主義体制の転覆を目的とするならば、地上軍を派遣しない限り不可能だ」
─軍事作戦は長期化するか。
「現時点では何とも言えない。サウジアラビアとバーレーンはアメリカの意志決定に影響を与えることができる。両国はトランプに攻撃中止を働きかけたが、トランプは耳を傾けなかった」
─トランプの意志決定に影響を与える要因として、何に注目すればよいか。
「経済だ。原油価格が高騰し、アメリカ内政に影響を与えるようになれば、トランプも方針を転換する」
─イスラエルの内政的観点から、イランへの軍事作戦をどの程度、継続できると考えるか。
「イスラエル国民はイランの軍事力をほぼ無力化したことを歓迎している。しかし、この陶酔感は2カ月も続かないと思う。アメリカも同様だと思う。両国がイラン攻撃に集中できる期間は、今後1〜2カ月と思う」
─イランの内政状況はどうなるか。
「もはやインテリジェンスの枠組みを超えたテーマになる。イスラエルとアメリカの対イラン工作は、政治エリートを対象にしたものだ。ハメネイ最高指導者をはじめとする権力中枢にいる人々の内在的論理、人脈を調査することと、これら指導部を中立化( ≒殺害)するために居場所を特定することだった。政権転覆を目的とする民情調査や工作は行っていない。
インテリジェンス分析に関して馴染まない2つのプレイヤーがいる。1つ目は、いま述べたイランの民衆だ。2つ目がトランプだ」
─イランの民衆についてはわかる。なぜ、トランプがインテリジェンス分析に馴染まないのか。
「トランプの心の動きは、“30分で180度変わる”ことがある。こういう常軌を逸した人物の心の動きは、インテリジェンスの技法によってはつかめないからだ」
イラン危機は、非線形の複雑系になっている。最初のわずかな違いが後の大きな違いを引き起こす。バタフライ効果(チョウの羽ばたきのような小さな出来事が台風のような大きな現象の引き金になりうる)がいつ起きてもおかしくない。
イランの民衆が引き起こすちょっとした事件やトランプ氏の心の動きが、大混乱を引き起こす可能性がある。

