
2026年1月に発売された新装版小説『逆襲のシャア 機動戦士ガンダム ベルトーチカ・チルドレン』(KADOKAWA)
【画像】「え、アムロの子供まで?」 これが小説版にしか登場しない、『逆シャア』金髪のヒロインです
『逆シャア』には2種類の小説があった
1988年公開の映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(以下、逆シャア)は、「ガンダム」シリーズを代表するふたりの人物、「アムロ・レイ」と「シャア・アズナブル」の決着を描いた名作です。この作品には、細部が異なるふたつの物語がありました。
『逆シャア』は劇場用アニメとして制作されましたが、原作者である富野由悠季監督自らが執筆した小説版もあります。劇場公開前からアニメ雑誌「アニメージュ」で連載され、当初は『機動戦士ガンダム ハイ・ストリーマー』というタイトルでした。全3巻のボリュームで、劇場版の前日譚といえる部分からスタートしています。
この小説とほぼ同時期に角川書店から発行された別バージョンが、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』という小説でした。こちらは全1巻で、劇場版とほぼ同じ内容です。しかし、劇場版とは異なる部分も多々ありました。
最も異なる点が、『機動戦士Zガンダム』で登場した「ベルトーチカ・イルマ」の存在でしょう。ベルトーチカが本来の物語における「チェーン・アギ」のポジションにいます。さらにベルトーチカのお腹には、「アムロとの子供がいる」という設定でした。
実は『ベルトーチカ・チルドレン』は、劇場版『逆シャア』の第一稿がベースの物語です。本来、ベルトーチカは『逆シャア』に登場予定でした。しかし第一稿を読んだ関係者から否定的な意見があったそうです。
それは「映画でアムロの結婚した姿は見たくない」…というものでした。この意見からベルトーチカの登場は見送られ、チェーンという新キャラクターが生まれたわけです。ちなみに他にも「MS(モビルスーツ)の存在をシナリオで否定している」という意見もありました。
『ベルトーチカ・チルドレン』は小説を読む限りでは、公開された劇場版とは大きく変わりません。キャラクターの配置換えに過ぎないといえるでしょう。「アムロの子供」の存在の有無が大きな違いです。ただ、これをガンダム世界の歴史で考えた場合、大きな意味を持つことになるかもしれません。

劇場版『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』では、ベルトーチカが登場せず、アムロのそばにはチェーン・アギが寄り添った (C)創通・サンライズ
時代が早すぎた? 富野監督の先見の明
『逆シャア』第1稿については、「子持ちのヒーローはありえない」という意見もあったそうです。当時の感覚ではそうかもしれませんが、現在ではありえない話ではありません。
たとえば『ドラゴンボール』の「孫悟空」、『NARUTO -ナルト-』の「うずまきナルト」など、作中の時間の流れに沿って子供を持つヒーローは少なくありません。しかし例を挙げると、その悟空が子供を授かったのは『逆シャア』公開後、1988年秋くらいのことでした。悟空が結婚し、子供を持ったことは当時衝撃的だったので、やはり時代が追いついていなかったというべきでしょう。
逆に、「アムロに子供を作る」という展開は時代を先取りし過ぎたといえるかもしれません。富野監督の早すぎた発想に、周囲の感覚が付いてこなかったのでしょう。
歴史のIFとなりますが、もしも『ベルトーチカ・チルドレン』のままアニメ化された場合、アムロの子供が宇宙世紀でどういう立ち位置となったのか、興味は尽きません。昨今の歴史の隙間を埋めるような商品展開から考えると、アムロの子供が「正史」ではいないことは、大きな可能性を失ったと思います。
もっとも、宇宙世紀ではパラレルワールドと思われる世界もいくつか存在していました。その観点からみれば、正史以外での展開もあり得るかもしれません。『逆シャア』といえば劇場版の物語を思い起こす人が多いでしょうが、『ベルトーチカ・チルドレン』以降の物語も見てみたいと思う人も少なくないと思います。
