
日本代表、前半苦戦の原因はどこに? 背景にあった“マギン問題”、修正力と個の力でスコットランドを撃破【戦術分析】
3月29日に行なわれた国際親善試合のスコットランド戦は、終盤まで0-0で推移しながら、84分に伊東純也が決勝ゴール。日本が1-0で勝利した。
スコットランドは北中米W杯・欧州予選C組を首位通過している。本大会でも日本とともに各グループステージを突破した場合、決勝ラウンド初戦で相まみえる可能性があるチームだ。そのスコットランドを相手に、アウェーで快勝したのは良い手応えになる。
ただし、決して楽に勝ったわけではなかった。スコットランドは序盤から日本に課題を突きつけてきた。
「良い守備から良い攻撃」を標榜する森保ジャパンにとって、第一の生命線はハイプレスだ。日本は左ウイングハーフに起用された前田大然を前へ出し、相手SBのネイサン・パターソンの箇所で追い詰めようと、プレッシングを仕掛けた。
ところが、右サイドハーフのジョン・マギンの動きが日本を惑わせる。マギンは右サイドのひとつ内へ入った箇所、ハーフレーンと呼ばれるスペースへ下り、CBからのパスを引き出そうとした。前田はこのマギンの動きが気になり、パターソンへのプレスで良いスタートを切れない。
それは8分のピンチの引き金となった。前田が追い切れなかったパターソンからのロングパスを、FWリンドン・ダイクスが収め、この展開からマギンのクロスにMFスコット・マクトミネイが飛び込み、シュート。GK鈴木彩艶のビッグセーブで難を逃れたが、日本は危うく大火傷をするところだった。
日本のハイプレスはCBの同数対応がベースになっているので、相手に精度の高いロングパスを蹴らせてはいけない。だが、マギンの動きを気にした前田は、寄せが一歩遅れてしまった。ならばと、伊藤洋輝がマギンをマンツーマンで追撃し始めたが、このアストン・ビラ所属のMFは強さと技術、展開力を備えている。伊藤を背負いつつも、パスをさばき、逆サイドへ展開し、日本の守備を混乱させるキープレーヤーになった。
マギン問題により、日本は25分くらいまで、ハマりが悪い守備のまま我慢していた。状況が変わり始めたのは、ボランチの藤田譲瑠チマが外へ出て、ハーフレーンを遮断するようになってからだ。
ハイプレス時、当初の藤田と田中碧は相手ボランチをマンツーマン気味に追っていたが、これを止め、1枚は少し外へカバーに出るようになった。もともと、後藤啓介や佐野航大らは中切りでCBを追い詰めているので、藤田ら2枚の両方が真ん中に立つ相手ボランチにぴったり付く必要はない。
この修正以降、日本のハイプレスは機能性を取り戻し、25分過ぎからハーフタイムまでは日本が多くのチャンスを築いた。この25分という我慢の時を、修正が遅いと酷評するか、あるいは控え組構成の中で決壊せず修正を果たしたことを評価するか。人により感じ方は違うかもしれないが、鈴木彩のおかげで後者の評価が可能になったのは間違いない。
一方、ビルドアップに関しては、前半からまずまず良かった。
日本の両ボランチである田中と藤田が横並びに立つと、4-2-3-1で守備をするスコットランドは、トップ下のマクトミネイに合わせてボランチの1枚がマークに出て来る。ところが、前半のスコットランドの守備は自陣のスペースを埋めることが全体方針だったので、田中や藤田が一列下りると、相手ボランチは深追いして来ず、フリーでビルドアップできる。序盤の田中はその対応を見定めるように、渡辺剛の脇へ下り、相手のことを見ていた。
田中らが下りて最後尾が4枚回しになれば必然、伊藤や瀬古歩夢がSB化して攻撃に絡む機会が増える。もう少し回数が多くても良かったが、そういったシーンはいくつか見られた。
また、日本の3-4-2-1とスコットランドの4-2-3-1のかみ合わせでは、両ウイングハーフの前田や菅原由勢が空きやすい。特に前田の立ち位置の優位性を活かしたサイドチェンジや、伊藤からのアプローチパスは利いていた。日本のビルドアップは時折、相手の単体プレスを食らってドキッとさせられた場面はあったが、全体としてはまずまず良かった。
そんなわけで、少々の躓きはありつつも、前半は押し気味に進めた日本。「決めておきたかったな」という印象でハーフタイムを迎えた。さあ後半もこの調子で……とは問屋が、いや対戦相手が下ろさない。
徐々に流れが悪くなったスコットランドは、後半頭からギアチェンジ。まずは守備面で両サイドハーフを日本の3バックにぶつけ、ハイプレスへ移行した。これでは前半のように余裕を持ってボールを運ぶことはできない。
また、攻撃面ではビルドアップ時にトップ下のマクトミネイが中盤の底へ下がり、ボールを引き受けるようになった。
田中や藤田が彼を追撃するとバイタルエリアを空けてしまうため、深追いを避け、マークできず。同時にスコットランドは、トップ下を下ろす代わりに両SBを高い位置へ上げている。前田がターゲットにしていた相手SBがポジションを上げてきたわけで、これをマークすると5バック化する。結果、後半の日本はハイプレスが息を潜め、自陣に押し込まれる時間が生じた。
このスコットランドのゲーム転換に対し、55分までは少し危うかった。ただし、相手サイドハーフがハイプレスに出て来た場合、その裏が空くのも必然。日本はウイングハーフが高い位置を取って相手SBをピン留めしたうえで、シャドーらが中盤サイドに流れ、上記の空いたスペースで縦パスを受ける。これを後半から投入された三笘薫や、藤田らがやり始め、徐々にスコットランドのハイプレスは無力化した。
もっとも、そうした戦術以上に、後半のスコットランドのゲーム転換をぶっ壊したのは、日本の選手のキャラクターだろう。三笘や伊東純也など後半から投入された選手たちは、長い距離を攻めるのが得意なスピード豊かな選手ばかり。たとえ5バック化しても、自陣に押し込まれても、トランジションで敵陣にスペースを確保しやすい状況は、スピード自慢の日本にとって決して悪いものではない。
また、上田綺世の投入もスコットランドを疲弊させたはず。せっかくハイプレスに行っても、鈴木彩の素晴らしいロングキックから、身体能力の高い上田が起点を作り、速攻でひっくり返してしまうからだ。そこへ三笘や伊東、中村敬斗らが攻め込んでくる。一歩引いて相手の立場になると、スコットランドにとっては悪夢のような流れだったのではないか。
それでも日本は、なかなか1点を奪えなかったのも確か。W杯に出場するチームはやはり甘くない。ただ、この試合内容で勝てないのはどうか、という雰囲気が漂ってきたところで、日本は3-1-4-2へチェンジ。この試合で塩貝健人を起用しておきたいという、マネージメント上の理由が大きかったかもしれないが、機能していた田中と藤田の両ボランチを下げるという、超攻撃的大博打に出た。
結果は大吉。3バック以外は全員が攻撃メンバーという恐怖の配置に加え、3バックから鈴木淳之介まで果敢にオーバーラップしてクロス。最後は伊東が決め、日本が1-0で競り勝った。最高にエンタメ感あふれる面白い試合だった。
だが、ふと冷静になると、この決定力が磨かれた日本でも、84分まで1点も奪えなかった事実は気にかかる。
日本の決定機、シュート場面に対するスコットランドの鋭いプレスバック、挟み込み。アレは間違いなく、日本のシュート精度や判断を狂わせた。アレがなければ、もっと早く先制できていたはず。しかし、実際の本番はアレの何倍もの迫力があるブロックを食らうわけで、やはりW杯は簡単にはいきそうもない。それを改めて実感する良いアウェーマッチだった。
文●清水英斗(サッカーライター)
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