
高血圧に対処する方法として、定期的に走ることが勧められたりします。
しかしそこまでの運動習慣を持つのはなかなか難しいものです。
イギリスのカンタベリー・クライスト・チャーチ大学(CCCU)を中心とする研究チームが、複数の運動法を比較した大規模分析を行い、「動かない運動」であるアイソメトリック・エクササイズが、血圧を下げるうえで最も有力な方法である可能性を示しています。
この研究は2023年10月6日付の医学誌『British Journal of Sports Medicine』に掲載されました。
目次
- 走るより効く?「空気イス」が血圧を下げる
- なぜ「動かない運動」が血圧に効くのか
走るより効く?「空気イス」が血圧を下げる
CCCUの研究は、運動と血圧の関係を幅広く比較したメタ分析です。
メタ分析とは、複数の研究結果をまとめて全体の傾向を調べる手法で、医学研究の中でも信頼性の高い方法として知られています。
この研究では、270件のランダム化比較試験、合計1万5827人分のデータが分析されました。
比較対象となったのは、有酸素運動、筋力トレーニング、高強度インターバルトレーニング、複合運動、そして「アイソメトリック・エクササイズ」です。
アイソメトリック・エクササイズとは、体を大きく動かさず、筋肉に力を入れた状態を保つ運動のことです。
代表的なのが、「プランク」や壁に背中をつけて座るような姿勢を保つ「ウォールシット(ウォールスクワットと呼ばれることもある)」、いわゆる“空気イス”です。
まず大前提として、この研究ではどの運動でも血圧を下げる効果が確認されました。
ただし、その効果の大きさには違いがありました。
収縮期血圧、いわゆる上の血圧で比べると、有酸素運動では平均約4.5mmHgの低下だったのに対し、アイソメトリック・エクササイズでは約8.2mmHgの低下が見られました。
単純に見ると、かなり大きな差です。
さらに、各運動の効果を順位づけした分析でも、アイソメトリック・エクササイズはもっとも高い評価となりました。
つまりこの研究では、「血圧を下げる」という点に限れば、走ることや激しく動くことよりも、姿勢を保つだけの運動の方が有力だったのです。
中でも特に目立っていたのが、空気イスです。
この運動では、収縮期血圧が平均10mmHg以上低下していました。
必要とされた運動量も、極端に多いわけではありません。
研究でよく用いられていたアイソメトリック・エクササイズの方法は、2分間の姿勢保持を4回、これを週に3回ほど行うというものです。
これまで「血圧を下げるには、まず走ること」というイメージを持つ人は少なくありませんでした。
しかしこの結果は、血圧対策においては「たくさん動くこと」だけが正解ではないことを示しています。
では、なぜ「動かない運動」が高血圧の改善に効果的なのでしょうか。
なぜ「動かない運動」が血圧に効くのか
前述のCCCUの大規模分析は、「どの運動が効くか」を比較した研究です。
その一方で、「なぜ効くのか」を考える手がかりとして参考になるのが、アイソメトリック・エクササイズを続けたときの体の変化を調べたCCCUの別の研究(2023年)です。
その研究では、「空気イス」を4週間続けたあと、血圧の低下とともに、動脈の硬さを示す指標が改善していました。
これは、アイソメトリック・エクササイズの効果が心臓だけではなく、血管そのものの状態にも関係している可能性を示しています。
仕組みとして考えられているのは、次のような流れです。
アイソメトリック・エクササイズでは、筋肉に力を入れた状態を保つため、筋肉の周囲の血管が一時的に圧迫されます。
すると、その部分では血流がやや制限されます。
その後、力を抜くと血液が一気に流れ込みます。
この変化が血管に刺激を与え、血管を広がりやすくする働きを高める可能性があります。
その結果、血液が流れやすくなり、血圧も下がりやすくなると考えられています。
ここで重要なのは、血圧が単に「心臓の強さ」だけで決まるわけではないという点です。
血液を送り出す心臓はもちろん大切ですが、血液が通る血管が硬ければ、どうしても圧力は高くなります。
逆に血管がしなやかなら、血液は流れやすくなります。
つまりこれらの研究が教えてくれるのは、血圧対策では心臓を鍛えることだけでなく、血管の状態を整えることも大切だということです。
もちろん、ランニングやウォーキングが無意味になるわけではありません。
有酸素運動にも確かな効果があります。
ただ、時間がない人や、激しい運動を続けるのが難しい人にとっては、空気イスのようなアイソメトリック・エクササイズはかなり現実的な選択肢になりそうです。
壁にもたれて数分間姿勢を保つだけ。
そんな地味な動きが、実は高血圧対策の有力候補だったのです。
参考文献
Simple, Static Exercises Could Lower Your Blood Pressure More Than Running
https://www.zmescience.com/medicine/isometric-exercise-lower-blood-pressure/
元論文
Exercise training and resting blood pressure: a large-scale pairwise and network meta-analysis of randomised controlled trials
https://doi.org/10.1136/bjsports-2022-106503
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

