日本時間の3月28日の深夜、UAE・ドバイのメイダン競馬場でワールドカップ・ミーティングが開催された。
今年のドバイは、レース前からと思わぬ逆風にさらされた。その原因はアメリカとイスラエルがイランを攻撃し、今もって解決の糸口が見つからない、いわゆる「イラン戦争」にある。
サウジカップ・ミーティング以降の出来事を時系列に追うと以下のようになる。
○2月14日:サウジカップ(G1)をフォーエバーヤング(牡5歳/栗東・矢作芳人厩舎)が制する。
○2月17日:サウジから転戦するJRA所属馬6頭がドバイへ渡航
○2月28日:アメリカとイスラエルがイランへの攻撃を開始。イランは報復としてUAEを含む周辺国を攻撃
○3月4日:マスカレードボール(牡4歳/美浦・手塚貴久厩舎)、ジャンタルマンタル(牡5歳/栗東・高野友和厩舎)がドバイ遠征の中止を発表
○3月5日:外務省が渡航先としてのUAEをレベル3(渡航中止勧告)に引き上げ
○3月6日:職員を派遣できないことなどから、JRAがドバイワールドカップ・ミーティングの馬券発売中止を決定
○3月11日:ダノンデサイル(牡5歳/栗東・安田翔伍厩舎)がドバイ遠征の取り止めを発表
○3月15日:ミュージアムマイル(牡4歳/栗東・高柳大輔厩舎)がドバイ遠征の取り止めを発表
○3月17日:ドバイ入りしていたケイアイアギト(牡3歳/美浦・加藤征弘厩舎)、シンフォーエバー(牡4歳/栗東・森秀行厩舎)、ルクソールカフェ(牡4歳/美浦・堀宣行厩舎)が出走を取り止めて帰国の途に就く
○3月18日:前日に日本を発ったガイアフォース(牡7歳/栗東・杉山晴紀厩舎)、パイロマンサー(牡3歳/栗東・吉村圭司厩舎)、ルガル(牡6歳/栗東・杉山晴紀厩舎)がドバイに到着
○3月24日:立憲民主党の石垣のりこ参院議員が国会の農林水産委員会でJRA所属馬のドバイ渡航について質問。所管の鈴木憲和農林水産大臣は、渡航した関係者にペナルティを課す考えはないと答弁
中東からの情報が錯綜するなか、関係者は出否についてギリギリの判断を迫られたため、情勢は日々目まぐるしく変化。それでもドバイ政府は万難を排してワールドカップ・ミーティングを通常通りに開催し、例年に比べて少ないながらも6頭の日本馬が各競走に出走した。
やはり最大の注目を集めたのは、サウジカップ(G1、キングアブドゥルアジーズ・ダート1800m)を制覇してメインのドバイワールドカップ(G1、ダート2000m)に臨み、史上初の中東ダブル制覇に挑戦するフォーエバーヤング。英国の主要ブックメーカーでの単勝オッズは軒並み1倍台の半ばという極めて高い評価を受け、断然の主役として昨年3着のリベンジを目指した。ちなみに本レースを制すると1着賞金で約696万米ドル(日本円で約10億4000万円)を上積みし、フォーエバーヤングの総獲得賞金は約56億円に達し、世界歴代賞金王に輝くこととなる。 レースでは、絶好のスタートを切ったフォーエバーヤングが他馬の出方をうかがい、米国のマグニチュードを先に行かせて2番手をキープ。緩みのない流れでレースは進み、第3コーナーを過ぎて各馬に動きが出るが、フォーエバーヤングは手応えが悪く、鞍上の坂井瑠星騎手の手が盛んに動いた。
そして迎えた直線。コーナリングを生かしてマグニチュードがフォーエバーヤングをやや引き離し、その差は最大で3馬身ほどまで開いた。厳しい体勢となったフォーエバーヤングだが、外へ寄れたり、内へ刺さったりしながらも、マグニチュードとの差をじわじわと縮めていく粘り腰を発揮。しかし一度開いた差は最後まで詰め切れず、逃げ切ったマグニチュードから1馬身差の2着に敗れた。決勝タイムは2分04秒38。
矢作芳人調教師は、「言い訳はできませんね。(坂井)瑠星も完璧に乗ってくれた。サウジからドバイまでうまく持ってこられたと思っていたが、結果だけがついてこなかった。一番(の敗因)は調教師の力不足だと思います。こういう情勢だからこそ勝ちたかったが、頑張った馬とスタッフは褒めてあげたい」と語り、悔しさを滲ませていた。
また、第3コーナーから手応えが悪くなったことについては、「現時点で、ドバイではパフォーマンスが落ちることを考えると馬場(が原因)なのかな、と」とコメントしている。
優勝したマグニチュード(Magnitude)は4歳牡馬(米/S.アスムッセン厩舎)。これまでG1レースの勝利は無かったが、クラークステークス(G2)、レイザーバックハンデ(GⅢ)を連勝した勢いを生かして参戦。海外初遠征のドバイでG1初制覇を果たした。
その他のJRA所属馬の成績は以下のとおり。
■UAEダービー(G2、ダート1900m)
①着 ワンダーディーン(牡3歳/栗東・高柳大輔厩舎)
3着 パイロマンサー(前出)
■アルクオーツスプリント(G1、芝1200m)
2着 ルガル(前出)
■ドバイゴールデンシャヒーン(G1、ダート1200m)
12着 アメリカンステージ(牡4歳/栗東・矢作芳人厩舎)
■ドバイターフ(G1、芝1800m)
6着 ガイアフォース(前出)
ワンダーディーンのUAEダービー優勝は、16年のラニ、22年のクラウンプライド、23年のデルマソトガケ、24年のフォーエバーヤング、25年のアドマイヤデイトナに続き、日本馬として6頭目のこととなった。
また日本馬の出走はなかったが、ドバイシーマクラシック(G1、芝2410m)は、昨年のジャパンカップ(GⅠ)を制したカランダガン(せん5歳/仏/F.グラファール厩舎)が圧勝。昨年の欧州年度代表馬に選出された力量を見せつけた。
今年のドバイワールドカップ・ミーティングについて、日本馬の参戦に対するファンの賛否はさまざま。なかにはSNS上でいささかエキセントリックと思われる非難を表明するコメントもあり、なかなか有力馬の情報だけに集中できない状況であった。筆者は、海外遠征も含めての“競馬のプロフェッショナル”である調教師が自己責任のもとで下した決断を尊重する立場。しかし同時に、事実上の戦闘状態にある地域で競馬の祭典が開かれるというミスマッチに心が騒めいたのも確かだ。これはファンも関係者も同じであろうが、来年は平和な環境のもとでの華やかな開催ができることを心より願っている。
文●三好達彦
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