
強豪国に“普通に勝つ”。森保ジャパンがイングランド戦で示した新境地。ハイプレスを捨てる決断とポケット封鎖【戦術分析】
[国際親善試合]日本1-0イングランド/4月1日/ウェンブリー
4月1日に行なわれた国際親善試合のイングランド戦は、23分に三笘薫のゴールで先制した日本が1-0で勝利を収めた。昨年10月のブラジル戦に続き、今回はアウェーでイングランドを撃破。W杯へ挑む日本代表の注目度は、国内外を問わず一層高まりつつある。
試合全体のポゼッション率は、イングランドが66パーセント、日本が34パーセントと、イングランドが圧倒的にボールを支配した。前半の立ち上がりこそ、日本は得意のハイプレスで敵陣からアグレッシブに襲いかかったが、10分も経たないうちにミドルゾーンに引き、ブロックを敷く展開になった。
システムはイングランドが4-2-3-1、日本が3-4-2-1だ。相手のCB2枚に対してはシャドーの三笘と伊東純也が寄せ、FW上田綺世は一列引いて相手の中盤の底に立つ4番のアンダーソンをマークする。その横に並ぶ8番のメイヌーには佐野海舟が前ズレして寄せ、トップ下の7番パーマーは鎌田大地がマークする。
こうして中央をマンツーマンで抑えたうえで、相手が外へボールを逃がしたら、両ウイングハーフの堂安律と中村敬斗が縦ズレし、高い位置でプレッシングをはめる。メキシコ戦やブラジル戦など、相手が4バックの場合、日本はこの手法でハイプレスに行くことが多い。
ところが、イングランドは9番のFWフォーデンが、前ズレした佐野の背後へ、最前線から下りてきた。日本が人合わせした中盤にプラス1の数的優位を作り、卓越した技術でハイプレスを外し、ビルドアップして来る。
日本は谷口彰悟がフォーデンを追撃すれば、人合わせがズレず、ハイプレスを続行することも可能ではある。しかし、イングランドはスピード自慢のサイドハーフ、ゴードンを中へ入れ、谷口と渡辺剛の間から飛び出しをうかがっている。序盤に何本か裏へのパスも出し、ゴードンの脅威を刷り込んだ。そのゴードンの立ち位置で谷口と渡辺の2人をピン留めし、下りるフォーデンにスペースを与えた。
このかみ合わせのなかでハイプレスがはまらないとみた日本は、無理をせず、ミドルゾーンに引く選択をした。ブロックを作ってコンパクトに構える場合、相手にボールは握られるものの、囲い込んだり、カバーリングしたり、近い距離でインターセプトが間に合ったりと、1対1以外の連係でボールを奪いやすくなる。また、フォーデンが下りるスペースも削ることができる。
23分の先制ゴールは、この状態で生まれた。
日本陣内でボールを持ったパーマーに対し、三笘がプレスバックして追いかけ、鎌田、佐野とともに囲い込む。そして三笘は背後から襲ってボールを奪うと、鎌田へ預けて前へダッシュ。鎌田はワンタッチで上田へ、上田もワンタッチで、走る三笘へ。
加速した三笘はトラップしながら、MFメイヌーを置き去りにした。三笘も速いが、鎌田と上田のワンタッチコンビネーションが一瞬、メイヌーを引きつけた効果も大きく、その隙に三笘がグングン加速する。
敵陣へ入ると、相手DF3枚が真ん中に立ちはだかり、三笘のスピードを殺そうとしたが、左サイドに味方の影あり。実は、最初に三笘がボールを奪った瞬間、最後尾から中村が猛スプリントでスタートを切っていた。その姿をチラッと見た三笘がスルーパスを送り、走り込んだ中村はゴール前へ仕掛けていく。
序盤に何度かドリブルの切れ味を見せていた中村に対し、相手DFは間合いを取ってドリブルに備えた。ところが、中村はドリブルやシュートを匂わせつつ、意表を突いて横パス。エリア内の感覚的な駆け引きは、中村の大きな魅力だ。この横パスが再び走り込んだ三笘にぴたりと合い、最後は三笘が流し込んだ。余談だが、このゴールはイングランドGKジョーダン・ピックフォードが922分ぶりに代表戦で喫した失点だったらしい。
見事なゴール。このロングカウンターの破壊力があるからこそ、日本はハイプレスに固執する必要がなかったわけだ。選んだ戦術に説得力を与える、先制ゴールだった。
先制後の日本は、鎌田を中心にある程度ポゼッションし、時折カウンターで脅威を与えつつも、基本的には約70分にわたってイングランドの攻撃を凌ぐ展開になった。相手は終始、伊藤洋輝と渡辺の背後、ポケットと呼ばれるペナルティエリアの両角スペースをねらってきたが、パラグアイ戦やブラジル戦で失点の原因となったこのスペースを、今回は日本が完璧に封じた。
たとえば28分、伊藤は対面する相手サイドハーフのロジャーズがボールを呼び込もうとタッチライン際へ開いた時、一旦は追撃しようとした。ところがその瞬間、ボランチのアンダーソンが、外へ流れた伊藤の裏を取ろうとポケットへ走り出す。ここでスルーパスを食らって崩されていたのが、これまでの日本だった。
しかし、伊藤はアンダーソンの飛び出しに気付き、ロジャーズ追撃を止め、中へ絞ってポケットを塞ぐ。その結果、ロジャーズは大外でフリーでボールを受けることになったが、そのエリアに脅威はない。伊藤は未然に、危険なスペースに蓋をした。
こうやって一歩間違えれば危機を生む状況を、淡々と、平然とこなしていく伊藤は、スコットランド戦のパフォーマンスを含め、前回W杯からの大きな成長が見られる。鈴木淳之介の勢いあふれる守備も魅力ではあるが、これほどの強豪が相手なら、バイエルンの環境で揉まれている伊藤の経験を頼りにせざるを得ない。
また、徹底したポケット潰しは伊藤だけでなく、両ウイングハーフにも見られた。堂安はもともと守備がうまく、以前から中央のカバーに目を光らせていたので印象に変わりはないが、イングランド戦で目を引いたのは左サイド、中村の攻守だ。スルーパスへの対応、中央のカバーリングなど、今までは怪しかった守備の印象を覆す試合になった。
日本の守備向上により、ねらっていたポケットを取れず、効果的な攻撃を繰り出せないイングランドは、後半に両SBを高い位置へ上げ、深く押し込んで来た。
前半はあまり目を向けなかったコーナーフラッグ際のスペースを突き、伊藤や渡辺を外へ引っ張り出そうとしてきたが、日本はボランチがカバーし、クロスへの空中戦を含めて対処した。メンバーが交代した直後に関しては、カバーの微妙な遅れが気になったが、声を掛け合って修正していた。
そして終盤の空中戦も凌ぎ切り、日本は1-0で勝利。序盤からミドルゾーンに引く展開になったのはブラジル戦も同様だったが、そこで失点せず、隙のない守備で我慢できたのは今回の大きな成果だろう。
価値ある、いや、意味ある勝利だったのではないか。カタールW杯のドイツ戦、スペイン戦やブラジル戦とは違い、今回は後半の勢いで呑み込んだわけではない。強豪を相手に、先行逃げ切りというベストな勝ち筋を見出した。また、カタールW杯のクロアチア戦は先制しつつもリードを守り切れず、1-1に追いつかれたが、今回は1-0のまま逃げ切った。
強豪を相手に、”普通に勝つ”。日本代表はまたひとつ、新たな扉を開けた。
文●清水英斗(サッカーライター)
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