負けるべくして負けた、とまでは言えないにせよ、負ける理由は十分にあった。
ジェンナーロ・ガットゥーゾ監督率いるイタリアは、FIFAランキングで50位以上の差があるボスニア・ヘルツェゴビナに対して、リスク管理にはっきりと軸足を置いた、良く言えば堅実、悪く言えば消極的なゲームプランで臨み、相手にほとんど脅威を与えることができないまま、PK戦で敗れ去った。
直接的な敗因が、前半42分に起こったアレッサンドロ・バストーニの退場劇にあったことは確かだ。これによって、残り時間を10人対11人で戦うことを強いられたイタリアは、5-3-1のローブロックを敷いて自陣に引きこもり、50本を超えるクロスを相手に許した末、そのうちの1本を押し込まれて同点に追いつかれる結果となった。この退場がなければ、試合の流れはまったく違うものになっていたことは確かだ。
とはいえ、それがイタリアに勝利を保証するものになっていたかどうかはわからない。というのも、1-0でリードして終えた前半の戦いぶりも、決して説得力のあるものではなかったからだ。
15分にモイゼ・ケーンが決めた先制点は、相手のバックパスに対するハイプレスでGKのパスミスを誘ったもので、非保持時のアグレッシブな姿勢が実らせたものだったとは言える。しかし、ボール保持時の振舞いに目を向けると、GKからのリスタートはほとんどがロングボール、後方からのビルドアップもミドルサードから先はサイド経由一辺倒で、相手にとっては予測しやすく意外性に欠けるものだった。
実際、前半45分を通してのシュートは、ケーンの先制ゴールを除けば、25分に珍しくポゼッションで相手を押し込んだところから、この試合でほとんど唯一、中央からのコンビネーションでマテオ・レテギが放った1本だけに留まった。
一方のボスニアは、頻繁にイタリアをゴール前に押し込み、サイドからのドリブルでの仕掛けやクロスから13本のシュートを放ち、うち4本を枠内に収めている。前半のxG(ゴール期待値)は0.54対0.17と、ボスニアが明らかに上回っていた。
ガットゥーゾ監督がGKからのリスタート(ゴールキック)をロングキックに限定したのは、後方からのビルドアップが相手のハイプレスに引っかかって、自陣でボールを奪われるのを嫌ったからだろう。
とはいえ、単に前線に大きく放り込んでも、体格で勝るボスニアCB陣との空中戦に勝てる見込みは低い。そこで、ハーフウェーライン付近の味方にピンポイントで低く速いボールを合わせ、その落としからの二次攻撃で一気に敵最終ラインの裏を狙う形が選ばれた。
だが、このロングキックをイタリアがマイボールにできたケースは多くはなかった。逆に42分のバストーニ退場劇は、まさにそのゴールキックが引き起こしたものだった。ハーフウェーライン右寄りに敵味方が密集したところに送り込まれたボールは狙いよりも短く、マヌエル・ロカテッリをマークしていたFWエルメディン・デミロビッチにヘディングで戻されてしまう。
それに最も早く反応したのは、ボスニアの中で最も走力がある左サイドハーフのアマル・メミッチだった。デミロビッチがヘディングすると確信した瞬間にスタートを切り、オフサイドぎりぎりのタイミングで裏に飛び出してボールに追いつく。マークについていたジャンルカ・マンチーニは難なくぶっちぎられ、中央からカバーに走ったバストーニも明らかに反応が遅れていた。
遅れながらも並走するのではなく、一か八かのスライディングタックルを選んだバストーニの判断が、致命的なミスであったことは誰の目にも明らかだ。たとえ追いつけずGKと1対1になったとしても、ゴールを守っているのは世界屈指のGKジャンルイジ・ドンナルンマである。最悪、ゴールが決まったとしてもスコアはまだ1-1。残り時間を1人少ない10人で戦うよりはずっとましな状況だったことは言うまでもない。
後方からのビルドアップを断念し、ロングキックに頼る選択は、攻撃の局面においてもイタリアの振る舞いを消極的なものにした。相手がハイプレスに来ずミドルブロックで受けに回った時でさえ、組み立ては専らサイド経由で、グラウンダーのパスで中央を割ってゴールに迫る選択肢は元々存在していないかのようだった。
ケーンとレテギの2トップは、敵の2CBと2対2の関係を作り質的優位を押し付けることで危険な状況を作り出せるという強みを持っている。中央からニコロ・バレッラ、サンドロ・トナーリのインサイドハーフを使って、近い距離で連携する2トップに斜めのパスを送り込む形は、攻撃の有効な選択肢になり得たはずだ。
5日前の北アイルランド戦は、相手がベタ引きで5-4-1のローブロックを敷いてきたこともあり、中央を割るのは難しかった。しかしこの試合では、ボスニアのウイングの守備強度が低いうえに、2ボランチは中央のプロテクトに意識が向いているため、その脇にはスペースがあった。
2トップと左右WBで相手の4バックをピン留めしてしまえば、2ボランチ脇のスペースをバレッラやトナーリが使うのは難しくないように見えた。しかし、前半を通してそれが見られたのは、上でも触れたレテギがシュートを打った場面(25分)、ただ一度だけだった。
限られた攻め手しか持たずに攻めあぐみ、守備に回っても受動的な5-3-2ブロックで相手にしばしばクロスやシュートを許すという前半の展開は、1人少なくなった後半には完全に固定化されることになる。
ガットゥーゾ監督は、バストーニの退場直後にFWレテギに替えてCBフェデリコ・ガッティを入れ、後半開始からは右WBを攻撃的なマッテオ・ポリターノからよりSB的な若手のマルコ・パレストラに替えて、5-3-1のローブロックで専守防衛に徹する道を選ぶ。
惜しまれるのは、ベタ引きで守勢一方になりながら、ケーンが相手の横パスをかっさらって独走でゴール前まで持ち込んだ60分の決定機を決め損ねたこと。その後にもフランチェスコ・ピオ・エスポージト(74分)、フェデリコ・ディマルコ(76分)とイタリアは二度の決定機を得ているが、最も「決めるべき」だったのは、やはりこのケーンのカウンターだった。
専守防衛が避けられない選択肢だったとしても、後半残り30分のガットゥーゾ監督の采配は、議論の余地を残すものだった。71分にケーンを下げてピオ・エスポージトを入れる選択は、カウンターアタックの可能性を自ら取り下げるものだった。
また、ボスニアが71分にハリス・タバコビッチを投入して、ゴール前に190センチ級の大型FW3人を並べたにもかかわらず、ガットゥーゾは、決して守備力が高いとは言えない左WBのディマルコをピッチに残した。
79分に喫した同点ゴールが、そのディマルコがSBアマル・デディッチに許したクロスから生まれたのは偶然ではない。イタリアのベンチには、エリア内での対人戦に強い大型CBのアレッサンドロ・ブオンジョルノが残っていた。
遅くとも71分の時点で、ディマルコに替えてブオンジョルノを入れて3バックの一角に置き、カラフィオーリを左SBに移していれば、左サイドと中央、双方の守備強度は高まっていたはずだ。
延長戦も含めて失点をこの1点だけに抑え、なんとかPK戦にまで持ち込むことができたこと自体は、褒めるべきなのかもしれない。しかし、そこに至るまでの状況をもたらした根底には、ガットゥーゾ監督の受動性の強いゲームプラン、そしてその背景をなす、相手を上回るよりもリスクを避けることを優先するネガティブ思考寄りのメンタリティーがあったとは言えないだろうか。
3大会連続でワールドカップ出場を逃す結果が、非常に残念なものであることはもちろんだ。しかしそれ以上に残念なのは、プレーオフの2試合を通じてイタリアが自らの力を信じ切れず、持てるポテンシャルを最大限に発揮して相手を上回ろうという勇気ある姿勢を打ち出すことすらできずに敗れたことだ。
負けるべくして負けた、とまでは言えないにせよ、負ける理由は十分にあった。そう繰り返す以外にはない。
文●片野道郎
【動画】ボスニア・ヘルツェゴビナに敗れ、イタリアが3大会連続でW杯予選敗退
【動画】敵地で1-0勝利! 日本がイングランドを倒した歴史的一戦
【動画】ボスニア、スウェーデン、トルコ、チェコが勝利! 激闘となった欧州予選プレーオフ決勝4試合のハイライト

