センダイガールズプロレスリング(仙女)のエース、橋本千紘は“怪物”と呼ばれる。レスリングのベースを持つ実力はまさに規格外だが、怪物性はそれだけではない。
3月22日、橋本はライバルであるSareeeのデビュー15周年興行に出場した。メインイベントで朱里と組み、Sareee&彩羽匠と対戦。現在の女子プロレスにおける実力トップが集結した一戦だ。
橋本としては、これまで何度も激闘を展開してきたSareeeの記念興行に出ないという選択肢はなかった。ただ、この日は所属する仙女の興行も。もちろんこちらも休めない。橋本は団体のシングル王者なのだ。
昼興行と夜興行のダブルヘッダーなら珍しくない。だがSareee興行は16:00開始で、仙女は18:30開始。しかも橋本のSareee興行の出番はメインだ。かなりの“綱渡り”になることを承知で、橋本は連戦を決意した。
Sareee興行のメインは、現在の“女子四天王”と呼びたくなる選手たちが満員マークのついた客席をどよめかせ続けた。打撃、投げ技、グラウンド、あらゆる攻防に妥協がない。最後は裏投げ連発から変形裏投げでSareeeが橋本をフォール。自身の記念試合を勝利で飾った。橋本のデビュー10周年興行ではシングルマッチでSareeeが敗れている。まさに最高のライバル関係だ。
大ダメージを負った橋本だが、まだやることが残っていた。横浜武道館でのSareee興行、そのメインが終わったのは18:30頃。そこから仙女の新木場1stRING大会にすぐさま移動する。要する時間は1時間ほどだ。
実は新木場大会では、橋本はリング上でトークショーを行なう予定だった。対戦予定だった岡優里佳が2日前の試合で頭部を強打し、大事をとって欠場となったのだ。
そこで決意を固めた別の選手がいた。デビュー3年目の新鋭YUNAだ。第1試合で勝利すると、橋本との対戦をアピール。橋本はプロレス入りのきっかけを作ってくれた恩人でもある。シングルマッチの機会を作るならここだと思った。
YUNAには苦い思い出もあった。昨年、先輩の優宇が引退する際、橋本と優宇のタッグ「チーム200キロ」と対戦したいという思いがあったのだが、言い出せなかったのだ。
「一歩踏み出すなら今しかない」
そんな思いで、YUNAは橋本戦に名乗りをあげた。橋本のトークショーはメイン前の予定だったが、到着を待つため試合順変更。橋本vs YUNAがメインとして行なわれることになった。
メインイベントは20時すぎに始まった。移動して、ウォーミングアップをやり直してとなると本当にギリギリのタイミング。観客もこの“綱渡り”を受け入れた。
急に決まった試合だから、もちろん細かい作戦は立てられない。つまり真っ向勝負しかない。序盤はレスリング、グラウンドのシビアな攻防。YUNAの果敢なタックルを切り、橋本がグラウンドで攻め込む。それに耐えてなんとか反撃しようとするYUNA。
派手ではないが見応えのある展開だった。普段から練習していないとできないものでもある。橋本は母校で団体の枠を超えたレスリング練習会を開催するなど、女子プロレスにおける“闘いのベース”作り、レベルの底上げにも尽力している。YUNAも熱心にレスリングに取り組んできたし、他団体の若手より抜きん出るためにも、ここで橋本と闘うことが大事だった。
結果としては橋本の圧勝。ラリアットでのフォール勝ちとなった。だが橋本の試合をなくさせず、最後まで気持ちを見せたYUNAの評価が上がる試合でもあった。
「橋本さんからは闘いというものを体で感じました。橋本さんにひとりで挑むのは怖かった。でも絶対に逃げたくなかった。後悔はまったくしてないです」(YUNA)
橋本もYUNAを称えた。
「対戦するタイミングを掴むのも実力のうち。そういう意味でYUNAには自分と闘う力があったということだと思います」
強行軍の連戦については「体はボロボロでしたけど、やればできるなって。自信につながりました」。
橋本の連戦、岡の欠場からYUNAのアピール。実は前日の興行では、岡の代打でアメリカ人所属選手のスパイク・ニシムラが1大会2連戦を行なっている。イレギュラーに次ぐイレギュラーな興行は、仙女の団体としての底力を示すものでもあった。
新木場大会のメイン後には、Sareee興行で橋本とタッグを組んだ朱里がリングに登場。対戦を要求した。3年ぶりの一騎打ちは、4月12日のセンダイガールズ後楽園ホール大会で実現する。
一方、Sareee興行では彩羽匠がSareeeとの対戦を求めている。こちらは5月5日、彩羽が所属するマーベラスの横浜BUNTAI大会でマッチメイクされた。
今度はトップ同士のシングル対決。女子プロレスの勢いは、さらに加速していく。連戦を終えた橋本は言った。
「女子プロレスで一番強いのは橋本千紘。それを証明していきます」
取材・文●橋本宗洋
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